第40話
次の日の朝、一度寮に戻り準備が必要なルチルの為、俺達は少し早めに馬車で学院へと出発していた。
今日のお供はアナスタシアのみで、アンは留守番となった。
「それじゃあ、皆んな勉強頑張ってくるにゃ」
「ああ、アンも仕事頑張るんだぞ」
「にゃいを言ってるにゃご主人様、当然にゃ」
「・・・」
俺はどうだろう?と思った。
アンがこの口調の時はあまり信用出来ないのだが・・・。
俺がもう少し釘を刺しておいた方が良いかと思い、アンに声を掛け様とすると・・・。
「アン?」
「にゃ?」
「私が貴女に頼んだ仕事覚えてますか?」
「・・・、にゃあ」
「確認したいので復唱をお願いします」
「にゃ、・・・」
「アン?」
「は、はい、食器の片付け、玄関の掃除、洗濯物干しです」
「・・・」
「え、え〜と・・・」
「あと演習場掃除もです。大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。はい‼︎」
「では、頼みましたよ」
(・・・、完全に調教されてるなぁ)
アンのアナスタシアに対する態度に俺はそんな風に思った。
あと一応俺がご主人様だぞっ。
学院に着くと寮に戻るルチルと別れ、俺とローズはそのまま教室へと向かった。
「やあおはよう、司、ローズ」
「おはよう、アルメ」
「おはよう、久しぶりだな」
「はは、そうだね。あ、そうだおめでとう」
俺とローズが教室に入室すると一瞬騒めきが起こったが、皆大丈夫だったかとか、婚約おめでとうと言ってくれた。
(まあこれはローズの人徳だろうな)
親衛隊も結成されるローズはやはり学生達に人気があった。
それもその抜群の容姿による男子人気はもとより、その真摯な姿勢で女子からの人気も高かった。
やがてルチルも合流し、その日の授業が始まった。
「はぁ〜、やっと午前の部が終わりかぁ」
「う、う〜ん、そうだな」
「大丈夫?司?」
「ん?何とかな」
「ローズ、僕にはぁ?」
「ルチル、だらし無いわよ、シャンとしなさい」
「うぅ〜、扱いが違うよぉ」
「はは、流石に熱々だね」
午前の授業が終わり、だらし無く机に伸びていた俺とルチルに、ローズから対照的な声が掛かっていた。
ルチルは不満がある様だが仕方ないのだ、何と言っても婚約者だからな?
自身に言い聞かせて、流石に恥ずかしくなった俺は、素早く立ち上がりその背で皆んなを大食堂へと促した。
ローズとアルメは俺の後につき、ルチルは急に元気を取り戻し、俺達を急かすのだった。
現金なやつと思い、俺達は顔を見合わせて笑った。
大食堂は学院の料理人が作る定食や月契約もあるバイキング、外部の業者による弁当やパン等品揃えは豊富だった。
俺は少し早めの冷やし中華始めましたの張り紙に惹かれアルメに頼み、自身は席取りに向かった。
「それにしても混んでるなぁ・・・」
俺達は全く出遅れたつもりは無かったが、学食の席はもう8割は埋まっていた。
(学食あるあるだな)
そんなどうでも良い事を考えつつ、4つの席が空いてる場所を探し俺は学食を練り歩いた。
「おい、あれ」
「ああ」
「え?あんな小さい子なの?」
「人違いじゃないか?」
「いや、あの黒髪と黒い瞳は間違いないだろう」
「ああ、そういえば」
「・・・」
まだ登校3日目にしての、自身の悪目立ちに小さく息を吐いた。
クラスでは流石に俺が危ない奴だと思う生徒は殆ど居ないのだが、休み時間に廊下などですれ違う生徒達は露骨に避けられてしていた。
「おいっ、不味いぞ」
「お前のせいだろ?」
「私は何も・・・」
俺の自身への溜息を、自分達への威圧ととったのか生徒達は足早に去って行った。
「・・・はぁ〜」
俺は誰も居なくなったので、今度は大きく溜息を吐いたのだった。
取り敢えず目の前空いた席を取らせて貰う事にした。
しばらくすると昼食を手に入れた皆んながやって来た。
冷やし中華は日本の物と変わらなかった。
マヨネーズは無いのかい?
「ご馳走さまでしたぁ」
「いつ見ても、ルチルは凄いね」
「そう?アルメは食が細過ぎるんじゃ無い?そんなんじゃ立派な騎士になれないよ」
「はは」
ルチルはどういうチョイスかはわからないが、牛丼・カツ丼・親子丼の丼物を3個食べ、最後に食事を終えた。
いや、立派な騎士=大食漢では無いだろう。
「ふぅ・・・」
「どうしたの司?」
「ん?ああ久しぶりだから、やっぱりちょっと疲れてな」
「大丈夫?」
「ああ、ちょっと歩いて来るよ」
「私も・・・」
「ローズ様っ」
「え?」
俺は先程の事もあり少し疲労感があったので、落ち着ける場所に移動する事にした。
ローズも付いて来ようとしたのだが、敢え無く他の生徒に捕まっていた。
俺は校舎の外に出ると人気の少ない方へと進んで行った。
すると丁度良く死角になり風通しの良い場所を見つけた。
(昔からこういう変な特技はあるんだよなぁ)
そんな事を考えつつ、アイテムポーチへと手を入れた。
そして中から取り出したのは、我が半身事『ルーナ=スパシーリチ』だった。
此れは特別賞受賞者特典でメーカーより、フィギュア発売時に贈られた物だった。
其れは透けるほどに白い肌を持ち、その肌に似合う銀髪を腰まで流し、その相貌は完成された芸術品の様で、其れを知らぬ者まで理由は無く惹きつけるものがあった。
「はぁ〜」
俺は先程までとは違い、落ち着いた時に出る其れを吐いた。
日本に居た時も学校や会社で嫌な事があると、良く此奴に救われてきたのだった。
「やっぱり、良いなぁ・・・」
こちらの世界に来てローズやリール、アナスタシア等今までお目にかかれなかった様な美人を現実に目にしたのだが、ルーナには全く別の魅力があった。
「ふぁ〜あ、・・・」
お腹も満たされ、騒ついてた心も落ち着き、その相乗効果からか俺は急な睡魔に襲われてきた。
少しだけ、そう思い何時もなら絶対にやらない様な事をしてしまう。
俺はルーナを手に持ったまま寝落ちしてしまい、その事自体を忘れてしまった。
翌日の朝その事を思い出し、学院に着いてすぐにその場所を探したがルーナは見つからなかった。
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