第39話


 『狩人達の狂想曲』ウェナーティオー・カールミナ、俺が新たに記した魔法だ。

 龍神結界・遠呂智で俺は8個の陣を成形し、一つの標的を襲う形を取っているのだが、威力は勿論凄いのだが、火力が過多な面はある。

 勿論この先その威力が無ければ倒せない敵も現れるかもしれないが、今それ程の相手と戦う事になれば、当然逃げる事を第一に考えるべきだ。

 狩人達の狂想曲、其れは下級の魔法陣を複数無詠唱で行う魔法だった。

 下級まで落とした事は魔空間の影響を考慮しての事である。

 この先パーティを増やしていく時メンバーの中に魔空間での活動が苦手な人間も入るかもしれない。


(まあ、俺とローズを擁する時点で、魔空間が苦手な人間は入りたくはないだろうけど)


 後もう一つ・・・。

 俺は取り敢えず使わない事にはどうにもならないと思い、早速、混沌を創造せし金色の魔眼を開いた。


「よし、いくぞっ‼︎狩人達の狂想曲‼︎」


 呪文を唱えた俺に反応し、5個の魔法陣が成形され、其処から闇の狼が生まれ、其々に別のミスリルの的に向かい駆けた。

 2頭は真っ直ぐ的に向かったが、1頭は背後まで回り込み、1頭は側面から、もう1頭は跳びかかった。

 的は激しく振動したが、破壊する事は無かった。

 だが、俺はこの結果に一先ず満足していた。

 この魔法は別に敵を確実に仕留める手段では無かったし、この魔法によってバランスを崩し自身も含め、パーティメンバーによる追撃や、敵の数の方が多い場合の足止めなどを目的とした魔法だった。

 なのでこの魔法で体力回復は行えない仕様にしていた。

 そして何より成果を感じたのは、大魔導辞典に新たな魔法を記し、其れを俺が使えたと言う事はこの先新たな魔法、今まで記してきた物の中からレパートリーを増やしていける事を意味していた。


(後もう一つ創ったんだが・・・)


 こちらは協力者抜きでは実験不可能な魔法だったし、何よりかなりの危険を伴う物で簡単に頼める事では無かった。

 取り敢えず俺は、狩人達の狂想曲の精度を高める為、訓練を繰り返す事にした。

 その日の夕方学院から俺達の停学解除の報せが届いた。


「いやぁ、やっとかぁ」

「ごめんね、ルチル、司」

「ううん、気にする事無いよ」

「そうだな」

「二人とも、・・・ありがとう」


 夕飯を採り終えて俺達学生組三人だけが食卓に残り、明日からの学院の事を話していた。


「そういえばさあ、もうすぐだね?」

「え?ああ、そうね」

「ん?何がもうすぐなんだ?」

「学生トーナメントだよ」

「学生トーナメント?」

「うん、僕達も初めてなんだけどね」


 そう言ってルチルが、説明してくれた。

 学生トーナメントとは、全学年参加可能な2対2のトーナメント戦だと言う事だ。

 武器は全て木製で、魔法も一部使用禁止だが、上位の者には、授業料免除の特典があり、優勝者には賞金も出るという。


「まあ、全学年とは言っても出場者は1・2年が多いけどね」

「そうなのか?」

「うん、予選・本戦共に外部からお客さんが入るしね、1・2年にとっての将来へのアピールの場だしね」


 3年こそアピールが必要な気がして聞いてみたが、通常3年間で卒業出来る学生はこの時期就職先が決まっているそうだ。

 なのでトーナメントに出場して変にボロを出す事はしない。

 稀に就職先が決まってない3年が出る事もあるが、よっぽど切迫詰まっているケースの様だ。


(まぁ、下級生相手に無双した所で冷静な目を持つ責任者ならそんな学生をスカウトしないだろうな)


「そういえば、二人はタッグを組むんだよね?」

「「・・・」」


 そうルチルに言われた俺とローズは、互いにマジマジと見つめ合ってしまい、頰を染め顔を逸らすのだった。


「はぁ〜、熱々だねぇ」


 ルチルは溜息を吐き首を振っていた。

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