第46話


 試合開始と共にミニョンは俺に向かって来た。


「行きますわよっ」

「さて・・・、とっ」

「っ‼︎」


 当然簡単に倒されてやるつもりなど無く、手に持った剣を払い迎え撃つ。

 最近のアナスタシアとの特訓、そして魔流脈を循環する魔力の影響から俺の剣は技こそまだまだだったが、そのスピードは剣を主力とする者の其れと見劣りしないものだった。

 ただ少し狙いが高かったか、ミニョンは其れを小柄な身体を生かし下方から潜り抜け、間合いを詰めて来た。


「貰っ・・・、くっ」

「ちっ、外したか・・・」


 俺のボディにその拳を叩き込もうとするミニョンに、前蹴りでカウンターを決め様としたが、敢え無くバックステップで躱されてしまった。


「やるな・・・」

「当然ですわっ」


 やはりミニョンはその体型だけありスピードと反応は中々のものだった。


「司っ、危ない‼︎」

「ん?」


 ローズからの声に反応すると、ミニョンの後方では既にフレーシュがその弓に矢を番え終えていた。


「・・・」

「おっと」


 無言で俺に向かって構えるフレーシュだったが、まだ其れを放つ気配は無かった。

 

(体勢を崩せばいつでも射抜くと言う事か・・・)


 俺はフレーシュに注意を払いつつも、ミニョンとの距離を詰めた。


「今度はこっちからだ」

「やらせませんわ‼︎」


 短縮詠唱を始めたミニョンに俺の剣が襲い掛かる・・・。


「たぁ‼︎」

「ロックシールドっ」

「何⁈」


 俺の振り下ろした剣はミニョンにより生み出された岩石の盾と衝突し、高音を発し防がれてしまった。

 その衝撃により少し後ずさる俺に対しミニョンは、俺の腰へと蹴りを入れて来た。


「くっ・・・」

「まだまだですわっ」


 ミニョンの蹴りを足でガードしきった俺に、続けてラッシュを叩き込んでくるミニョンだったが、やはりその一発は防御さえ怠らなければ此方をダウン出来るものでは無かった。


(フレーシュの方はどうだ・・・?)


 そう思い視線を向けると、其処には既に矢を弦から外し、詠唱の終わったフレーシュが居た。


「アタックエフェクト」


 フレーシュが魔法を唱えると、ミニョンを淡い光が包んだ。


「行きますわよ」

「⁈」


 俺はミニョンの気合いから、野生の勘とでも言う物で危険を察知しガードを解きその拳を躱した。

 紙一重で俺の脇を通り抜けたその拳は、地面に突き刺さった。


「あ、あぁ・・・」

「くっ‼︎」


 俺は言葉通り地面を抉り突き刺さったその細腕に唖然としてしまった。


(これが支援魔法の威力なのか?)


 偶々でしか無かったが回避に回った事に自身の事を褒めてやりたくなる威力がその一撃にはあった。

 だが俺を仕留め様とした大振りな攻撃により、ミニョンは体勢を崩してしまっていた。


「ローズ‼︎」

「了解っ、エアショット」


 俺の作る隙にローズが魔法を叩き込む、完璧と呼べる形だった。


「きゃあーーー‼︎」


 幾ら身軽なミニョンでもその体勢で襲い掛かる風の魔法は避けれなかった。

 直撃を喰らい敢え無くダウンしてしまったミニョン。

 デリジャンはその右手を上げ指によるカウントを始めた。


(後はフレーシュか・・・)


 そう思い視線を向けると先程まで立って居た場所に既にフレーシュは居なかった。


「ミニョン、ノックアウトじゃ」


 デリジャンの声に其方に視線を動かすと、その身体で視線を遮る様にフレーシュは既に弓の弦を目一杯まで引き絞っていた。


「危ない‼︎」

「え?」


 フレーシュの狙いはローズだった。

 放たれた矢は閃光とでも呼ぶべきか?

 明らかに人の力で放たれたとは思えないスピードでローズを襲った。


「っ、ぐうぅ」

「ローズぅーーー‼︎」


 右の太腿に矢を受けてしまいローズはその場にダウンしてしまった。

 デリジャンは再び右手を上げカウントを始める。

 だが・・・、再び其の先に居た筈のフレーシュは姿を消していた。


「な⁈」

「ローズ、ノックアウトじゃ」


 ローズの敗退が告げられ残りは俺とフレーシュのみ、死角に入られた俺は咄嗟に詠唱を始めた。


「狩人達の狂想曲‼︎」

「なんとっ⁈」


 俺を取り囲む様に5つの魔法陣が成形され其々から闇の狼が現れ、駆け出して行った。


「っ⁈」

「其処かぁ‼︎」


 4匹の狼は場外で溶ける様に消えてしまったが、俺の背後の魔法陣から生み出された1匹はフレーシュに向かって跳び掛かっていた。

 体勢を崩し矢を弓より外してしまったフレーシュ。

 俺は其方に剣を構え駆け出した。


「そこまでっ‼︎」

「え⁈」

「・・・っ」


 同時にデリジャンより試合終了が告げられるのだった。

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