第35話
俺は深い眠りの中、ここに来てからの事を思い返していた。
日本で会社員をしていた俺は、ほぼリストラの様な形で退職をし、アパートを引き払い実家に帰る途中でこの世界へ召喚された。
俺を召喚したリアタフテ家は代々、女当主候補に召喚による婚約者を充てがう習わしがあった。
俺の婚約者はローズ=リアタフテ。
ローズは現実ではあり得ない様な美少女で俺にとっては子供でも可笑しく無い年齢。
しかし俺も召喚された事で何故か若返ってしまい、肉体年齢的にはピタリと合ってしまった。
その後ローズの母親で現当主のリール=リアタフテより専属のメイドを持つ事を勧められた俺は、奴隷商でリールの旧友パランペール=シャリテの思惑もあり猫娘アンと契約を結ぶ事になった。
俺は若返ってしまった事もあり、ローズの通うスタージュ学院に入学する事になった。
そこで学院長のデリジャンによる試験を受け、その過程で混沌を創造せし金色の魔眼に目覚めた俺は、学生の頃より書き溜めていた厨二妄想の大魔導辞典に記された龍神結界・遠呂智を使い見事合格となった。
ただ俺が試験で大量の魔石を使えない状態にしてしまった事を気にしたローズが、単身でダンジョンに魔石を集めに潜ってしまう。
俺はローズの親友であるルチルと共にローズの後を追った。
俺とルチルがローズを発見するとローズは既に三人組により拘束されていた。
魔法も封じられてしまい、手も足も出ない俺達は俺の隠し持っていた剣により一瞬の隙を作り、救出に来たローズのメイドであるアナスタシアにより助けられた。
そして・・・。
「・・・、んっ、ここは?」
俺は自分のいる場所を確認しようとしたが、まだ身体は重く、ベッドの上に横たわっている事しか解らなかった。
(ここは、部屋のベッドか?あれ?胸が一番重いなぁ?)
どうやら屋敷の自分の部屋のベッドの様だが、俺は胸の上に一番重みを感じちょっと息苦しい事に疑問を抱いた。
(胸をそんな殴られた記憶は無いけど?)
その疑問への答えはすぐに出た。
「ん〜、ふにゃあ〜」
「ん?アンか・・・」
俺の呟いた声に俺の胸を枕にして寝ていたアンのケモ耳がピクッと動いた。
(アン、・・・きっと俺を心ぱ・・・)
「んにゃ、違うにゃ、今日の帰りの馬車で夕飯の鰻はいつも仕事を頑張っているアンにあげるとご主人様が言っていたにゃ〜、・・・むにゃむにゃ」
「・・・」
俺はきっと心配してくれていた(願望)アンのケモ耳を目一杯引っ張った。
「うぎゃー‼︎何にゃ⁈姉御、アンはサボって無いにやっ‼︎」
「・・・」
「にゃ?」
「・・・」
俺とアンの視線がしっかりとぶつかった。
姉御?アナスタシアの事か?
「ご主人様?」
「おう、アン。ご主人様だぞ」
「にゃ、にゃ、・・・」
「にゃ?」
アンはガバッと起き上がり、部屋から駆け出して行った・・・。
「ご主人様がアンの献身的な看病のお陰で死への旅から途中下車したにゃあーーー‼︎」
「・・・」
叫びながら。
・・・もう何も言うまいと思ったが一言、・・・俺はぶらりしてないぞ。
そうしてアンに呼ばれ部屋に来たリールは、・・・完全に目が据わっていた。
ただ短く一言だけ今は休みなさいと言われた。
「今は、ね・・・」
「・・・」
リールはすぐに部屋を出て行く様で、ドアに手をかけそう呟き退出した。
「・・・」
俺は恐怖から逃げる為、今はとにかく眠る事にした。
再び目を覚ました俺は、ダンジョンからの脱出後屋敷に泊まりに来ていたルチルと再会し、そして・・・。
「司ぁーーー‼︎」
「おわっ、ローズ‼︎」
まだ身体中に痛みが残る俺に飛びついて来たのは、無事救出されたローズだった。
ローズは比較的軽傷だった様で元気そうだ。
「こほんっ」
「「・・・」」
「は、ははは」
屋敷の執務室、強烈なプレッシャーに無言になる俺とローズ、そして愛想笑いを浮かべるルチル。
プレッシャーの先にはリールが鎮座し俺達を見据えていた。
俺達は姿勢を正しリールに向かって整列した。
「「「・・・」」」
「さて・・・」
そこから俺達は一生分の叱責を受ける事となった。
「みんな、わかったかしら?」
「「「はい」」」
いつもと違うしっかりとした口調でリールから叱られ、最後に確認をされた俺達は三人でしっかりと返事をした。
リールはまだ怒りが収まらないのか、ならもういいわとだけ言って退出を促してきた。
俺達は部屋を出ようとしたのだが、俺は立ち止まった。
「ん?どうしたの司?」
「・・・ローズ」
「え?」
「・・・」
「・・・うん」
見つめあい、お互いの意思を確認した俺とローズはリールへ向き直った。
「?何かしら?」
「リール=リアタフテ様、ご報告があります」
「・・・」
真剣な表情でリールに告げたローズ。
その様子にリールは追い出す事はせず、静聴の姿勢をとった。
「私ローズ=リアタフテは真田司様と正式に婚約した事をご報告致します」
「・・・」
ローズの言葉を聞き終え、リールは俺に視線を向け問いかけてきた。
「間違い無いのかしら、真田様?」
「はい、よろしくお願いします」
俺の返答を聞いたリールは短くそうと言い。
「解りました。リアタフテ家当主リール=リアタフテが了承します」
「「はい‼︎」」
「おめでとう、二人とも」
据わっていたリールの視線に少しいつもの柔らかさが戻った。
そして正式に俺とローズの婚約が王都に報告され、後日リアタフテ領に発表された。
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