第36話


 ダンジョンでの騒動からしばらく、デリジャンの判断で俺達は学院を停学となった。

 デリジャンはダンジョンで集めた魔石を渡しに来た俺達を激しく叱責した。

 教育の場を整えるのは、教育者の役目であり、その責任は長である自身にある。

 その加護下にある俺達が心慮する問題では無いと・・・。

 その言葉通りデリジャンは昔の伝手を辿り見事魔石を集め、武道場の使用を可能にしたのだった。

 せめて集めた魔石を納めたいとデリジャンに頼んだのだが・・・。


「お主達が持っておれ」

「ですが・・・」

「はぁ〜」

「・・・」

「ふむ、冒険者とは金の掛かるもんじゃ」

「・・・」

「それは、いつかお主達の活動資金として使いなさい」

「・・・、はい」

「うむ」


 そう言われ俺達は魔石を持って帰った。

 そして今日・・・。


「着いたわね」

「ああ」


 俺とローズは二人で街まで来ていた。

 停学とは言っても自宅謹慎では無く自由な外出が出来たので、ルチルはリアタフテの屋敷に連泊していた。


「ルチルも来れば良かったのになぁ」

「え?」

「ん?」

「あ、そ、そうねぇ・・・」

「?」


 俺とローズは冒険者ギルドに登録し、そのまま集めた魔石を買い取って貰う為に街まで徒歩で来ていた。

 アナスタシアは馬車の準備をしてくれたのだが、ローズが辞退し徒歩でここまで来ていた。

 なお、ルチルはリールとアンと共にお茶をしていた為、ついてこなかった。


「モグモグ、僕の分?」

「ああ、報酬だよ?」

「モグモグ、半分で貰えるんだよね?」

「ああ」

「モグモグ、ありがとうっ」

「いや、だから、確かめなくて良いのか?」

「モグモグ、何を?」

「報酬額だよ」

「モグモグ、え〜」


 曰くルチルは面倒との事である。

 命をかけた仕事だろうにそんな事で良いのかと聞いたが、でも四匹のワーウルフの内自身の仕留めたのは一匹だけで半分貰えるのだから構わないと言った。

 それはそうなのだが・・・。


(お前ただお腹が空いてるだけだろう・・・)


 ルチルは屋敷に泊まり始めてアンと並ぶ程健啖家である一面を見せていた。

 その細身の身体の何処にそんなに入るのかと俺は驚いたが、ローズ達はいつも通りと言う反応だった。


「や、やっぱりルチルと一緒が良かったの?」

「良かった?いや別に本人が良いって言ってるんだから構わないだろ」

「そ、そう・・・」


 さっきからローズは変な反応をしてるが、歩きに疲れたのか?


「で、でも今日は良い天気ね〜」

「そうか?」

「そ、そうよっ」


 空を見上げて見ると少し曇っていた・・・。

 まあ、春も終わりが近付きそろそろ夏がその扉を開けようとしている今日、暑さも増してきているので少しは涼しくて良い天気と言えるのかもな。


「でもいよいよ俺も冒険者デビューかぁ」

「そうね」


 もう既にダンジョンには入ったのだが正式に冒険者として登録するとなると流石に興奮していた。


「そういえばローズ?」

「どうしたの?」

「ああ、その腰のアイテムポーチなんだけど」

「これ?」


 そう言ってローズがポーチを指差した。

 それは俺が冒険者デビューと同時に手に入れたい逸品であった。


「ああ、幾ら位するんだ?」

「う〜ん、物によるとしか、・・・」

「ローズと同じタイプの物が良いんだ」

「えっ、そ、そうっ」

「あ、ああ」


 ローズは突如、俺との距離を詰めて来た。


(いや、近いから、この距離感で見つめられるとドキドキ止まらないからっ)


 正式に婚約したとはいえ、不意打ち以来進展はない俺とローズだった。

 なおアイテムポーチは十万オールとの事だった。

 高いのか?

 俺とローズが街に入りギルドへ向かっていると、途中至る所でお祝いの言葉を頂いた。

 ローズは領民に人気があるらしく、俺も現当主の旦那にして王都で活躍するケンイチと同じ国から召喚された事で期待が高いらしくそれなりの人気の様だった。

 そうして俺とローズはギルドへと着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る