第20話
俺は取り敢えず自分の右手に意識を集中させて見た。
(昨日ローズはこんな風に右手を前にして・・・)
「エアショット」
う〜ん、やっぱり使えないな。
「おい、なんだあれ?」
「あいつ、エアショットごときも発動出来ないのか?」
「プークスクス」
ここに来てから言葉で困らなかった事なども考えて、俺がなんらかのチートに目覚めてる事に期待したのだが・・・、やっぱり何か得物を貰ってさっさと不合格になるか?
「おいっ、そこの下賤の者、さっさと見世物を始めろ」
「・・・」
「それとも、まだ躾が済んでいないか?」
「・・・」
「なら、俺が躾けてやろう、ほらっ、おすわりだ」
アンベシルはそう言った後、自分の右足を前に出し、ほらお手だと言ってきた。
(う〜ん・・・)
「ははは、おいやってみせろよ」
「アンベシル様のリクエストだぞ」
「プークスクス」
人垣の連中はやはりアンベシルの取り巻きが大半のようで、俺に向かい囃し立ててきた。
「それとも、まだこんな芸は早かったか?」
「・・・」
「ならば、犬畜生特有の芸を見せてみろ。せっかく柱が立っているんだ、その柱に向かい小便をしてみせろ」
「・・・」
「・・・、グスッ」
いい加減下品な奴だと思った。
取り巻きも程度が知れていて、そんな下らないネタに爆笑している。
それに・・・。
「・・・」
「っ・・・」
俺が後ろを振り返ってみると、ローズと目が合ったが、ローズはすぐに視線を逸らした。
その瞳には涙が光っていた。
(俺だけならどんな事を言われても不合格で終わらせれば良かったんだが・・・)
なんとか、合格の手を考えるしかないな。
俺はローズがこんな状態なので、デリジャンに聞いてみる事にした。
「学院長」
「ん?なんじゃ?」
「魔法って、どうやって使うんですか?」
「そうじゃのう、一言では語れんのう」
そこをなんとか説明して欲しいんだが。
「じゃが、自身が何の為に力を使いたいか、それをはっきりさせてみよ」
「・・・」
何の為ににかぁ・・・。
きっと俺は今ローズの為に魔法を使いたいのだ。
すぐにツンツンするし、でも優しい所もあって、凄く高飛車なのだが、真面目で自分に厳しく、そして・・・。
俺を始めて好きだと、初恋だと言ってくれた彼女。
(うん?なんだ・・・)
俺は右眼の奥が熱くなってくるのを感じた。
(俺まで泣く訳にはいかないんだが)
そう思った刹那、俺の目の前が急に白い灯に包まれた。
「おい、なんだ、あいつ何かしたのか?」
「まさか、魔法使えないんじゃないのか?」
「おいっ、おいっ」
あの召喚の夜の灯に似てるな。
(まさか俺日本に帰るのか?)
一瞬そんな事が頭によぎったが、どうやら違った様だ。
その灯は俺の胸の前に集まり、その中には意外な物が浮かんでいた。
大魔道辞典、俺が書き溜めてきた妄想の塊だ。
俺がそれを手に取ると、最初のページが開いた。
俺がこの辞典を創り始めた時、最強の魔術を記したページ。
そのページに指を触れた瞬間俺の右眼が、怪しく金色の輝きを放った。
「お、おい・・・」
「ん?」
「ゴクっ」
なんて言ったかこのオーク擬き?
よく思い出せないなあ、まぁ、良しとしよう。
俺はそんな事よりも先ずやるべき事をやる事にした。
「さてと・・・、応えよっ、混沌を創造せし金色の魔眼」
俺がそう吼えると俺の右眼はより輝きを増した。
「魅せてやるっ、愚かなる神々をも深き眠りの時に沈めた我が最強の魔術を・・・」
俺が両腕をミスリルの柱に向けると、柱の底から一つ、そしてその上に七つ魔法陣が現れた。
「な、なんじゃとぉーーー」
「えっ、司っ‼︎」
そして、俺は唱えた。
「
すると、七つの陣からはそれぞれ、火・水・土・風・氷・雷・光の龍が現れ柱を喰いちぎっていった。
八つ裂きにされた柱の欠片、そして暴れ回る七頭の龍、俺はそれらを一瞥し冷たく吐いた。
「喰らえ」
其の声に反応する様に、柱の底の陣から闇黒の龍が顔を出し、其れ等を飲み込んだ。
「・・・、ふう」
「「「・・・」」」
使えたな、魔法。
これで俺の入学に文句は言えないだろうと、ギャラリーに目を向けてみると、そこには数人が立っているだけで、他ほとんどは地面に倒れ込んでいた。
「ん、どうしたんだ?」
俺がそんな疑問を呟いた瞬間、壁や天井から大量の黒く染まってしまった魔石が崩れ落ちた。
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