第19話


 デリジャンは俺の申し出を受け入れ、試験会場に案内すると言った。


(試験会場って、俺が試験を申し込むのを予想していたのか?)


 確かめてやろうかと思ったがデリジャンがすぐに部屋の外へ出て行ったので、俺とローズは後をついて行くしかなかった。

 デリジャンに連れられて来たのは日頃実技に使われる武道場でその壁と天井には幾千、或いは幾万だろうか、昨日リアタフテの演習場で見た制御装置と魔石が埋め込まれていた。


(流石に名門の学院だけあって、高い魔力を持ってる生徒も多いんだろう)


 デリジャンが言うには試験は戦闘科は実技が、技術科は筆記が行われるそうだ。

 よって俺の試験は実技で行われるとの事だ。


「で、司は得物は何を使うんじゃ?」

「得物、ですか?」


 得物って、武器を使う試験なのか?

 そういえば実技って何するんだろう?


(正直な話試験に落ちるつもりだから考えてなかったな・・・)


 試験は受けるが不合格、俺はそのつもりで来ていた。

 当然である。

 この世界の者には必ず魔流脈はあるそうだが、俺は何と言っても異世界人なのだ。

 俺に其れがあるとしても、召喚の儀を耐えた事は魔力が低くて、魔流脈に負担が掛からなかっただけかもしれない。


(何より俺は詠唱し魔法陣を発動させる方法も知らないしな)


 なら武器を使うのはどうだろう?

 若い頃の運動能力は中の中でしかなかったし、格闘技や武芸、スポーツは見る専でしかなかった。

 俺はそんな事を考えていても仕方ないし、デリジャンに試験内容を確認する事にした。

 すると、デリジャンは会場の中央に立つ5メートル程の鉄柱を指し示した。


「彼処に柱あるじゃろう?」

「ええ」

「あれは特注のミスリル製の物なんじゃ。あれに今お主の持つ最大の力を示してもらう」

「壊さないといけないとか?」

「ほっほっほっ、それは豪気な事じゃが、無理じゃ」

「・・・」

「お主の示した力を儂が見定め、合否を決める」

「なるほど、取り敢えず得物は必要ありません」

「そうかあ、まあ良かろう」


(ふぅ、よかったぁ・・・)


 俺は心の中で息を吐いた。

 今回は取り敢えず不合格でも構わないが、推薦してくれたリールや、それにローズの事を考えると先々合格を目指すつもりなので、あれの破壊が合格条件だと厳しいものがあるからな。

 デリジャンの説明が終わると、この学院の生徒達だろうか、会場の中に次々と入って来た。


「えっ、どう言う事?」


 ローズがそう言いデリジャンの方を見たが、デリジャンも状況を把握出来てない様だった。

 すると百人以上は集まっただろうか、その人垣が開き出来た道から一人の男が前に進み出た。


「うっ・・・」


 ローズはその顔を見てかなり嫌そうな表情を浮かべた。

 それもそうだろう、その進み出た男は一人というよりは一匹と表現した方が良い存在だった。


(こういうの何処かで見た事あるんだよなぁ、え〜と?)


「ああっ‼︎オークなんだ」

「ええっ〜〜〜‼︎」


 そうだった、日本にいた時良くRPGなどで見た、モンスターのオークに似ていたんだ。

 俺が急に上げてしまった大声に驚いているローズの隣で、俺は一人頷き納得していた。


「これは、どういう事じゃ、アンベシル=ペルダンよ?」

「これは現学院長殿、ご機嫌麗しゅう」

「麗しくなんぞ無いぞ、質問に答えよ」

「いえいえ、あれが、我が愛しのローズたんの?」


 アンベシルだったか?そう呼ばれたオーク擬きは、顎で俺を指し示してきた。


「はぁ・・・、そうじゃ」


 デリジャンはいっこうに状況の説明を始めないアンベシルに酷く疲れた様子だ。


「ふ〜ん、こんな見るからに下賤な者が」

「・・・」


 俺の隣でローズが今にも爆発しそうだが、俺はなんとか押さえた。


(卑屈になる必要は無いが、そんな上品な生活もしてないからなぁ)


「で・・・?」

「ああ、現学院長殿そうでしたな」

「そんなに現を強調する必要は無いぞ」

「いえいえ、現なのですよ」


 アンベシルはデリジャンに対しても不遜な態度で言った。


「この下賤の者を無試験で学院に入学させようとした貴方には学院長の座を降りて頂きたい」

「・・・、試験はするぞい、今からな」

「らしいですね、でもその試験を貴方に任せる訳にはいきませんね」

「じゃあ、どうするんじゃい?合否の決定は学院長特権じゃし、儂しか決めれんぞ、・・・現在は」

「でしょうね、だから試験を公開して貰いたいのですよ」

「ふ〜む、どうじゃ構わんか?」


 デリジャンは俺の方を向きそう聞いてきた。


(リアタフテ家の事も考えると、あんまり恥はかきたく無かったんんだがなぁ)


「解りました」

「じゃとよ、良かったのぉ?」

「ふんっ」


 アンベシルは冷たく俺を一瞥し、人垣の先頭へと向かった。


「司、ごめんなさい・・・」

「いや、ローズが謝る事はない」

「でも・・・」

「俺こそごめんよ」

「えっ、司・・・?」


 俺は一瞬ローズの触れただけで折れそうな肩に手を置き謝罪の言葉を口にすると、ローズは驚いた表情を見せた。


「さてと・・・」


 俺は短く息を吐き、処刑台とも思える試験の舞台に進み出た。


「それでは、試験を始めるぞ‼︎」


 デリジャンの声が試験場に響き試験が開始された。

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