第21話
俺は状況が掴めずただただ立ち尽くしていた。
俺の目のに現れた大魔道辞典、開かれた魔眼、全てを飲み込んでしまった俺の魔法、倒れているオークの取り巻き達、変色し崩れ落ちた魔石。
そして何より、俺が俺で無くなる様な感覚。
(確かに酷い態度だと思うが、俺ってこんなに暴力的な人間だったのか?)
そんな恥ずかしい事を思いながら、背後にいた筈のローズを振り返った。
「はぁはぁ、・・・っ」
「ローズっ‼︎」
するとそこには、膝をつき震える肩を抱き締めるローズが居た。
「おいっ大丈夫か⁈」
「・・・司、・・・え、えぇ」
「どうしたんだ、急に」
「え?司は大丈夫なの?」
「俺?俺の事は良いんだ、それよりお前本当に大丈夫なのか?」
俺はローズの隣に行き肩を支える様にした。
するとローズは俺の頰にその小さな頭を寄せ、俺の鼻に柔らかな髪が流れてきた。
優しく俺を包むローズの香りに、心が落ち着いていくのを確認出来た。
そうしていると、ローズは涙が残っていたのか、潤む瞳で俺を見上げてきた。
「ねぇ、司・・・」
「ん?」
「ふふ」
「どうしたんだ?」
「・・・、凄かったよ」
「あ、ああ」
「・・・大好き」
「え?何だ?」
「ううん、何でもないっ」
ローズはそう言って、俺を見上げたまま静かに瞳を閉じた。
(え、え〜と、これって・・・)
俺は心の中で深呼吸をし、目を閉じ・・・。
「おっほぉんっ」
「「・・・」」
目を閉じ・・・。
「うおぉふぉっっっん〜〜〜‼︎」
「「・・・」」
目を開け、咳払いの聞こえた方に視線を向けた。
「どうも、現学院長」
「ほっほっほっ、そんなにいじめるとデリジャン傷ついちゃうぞ」
傷ついちゃうぞじゃない。
ムードがぶち壊しである。
「それで、これはどういう状況なんですか?」
俺は諦めてここにいる者の中で、最も知識を持つであろうデリジャンに確認してみた。
「う〜む、それは、場所を変えるとしようか」
「はぁ・・・」
俺は状況説明は現場にいた方がしやすいと思うのだが、デリジャンはそうではない様だった。
デリジャンはいつの間に指示を出していたのか、白衣を着た者が倒れた生徒の救護に当たっていた。
デリジャンより学院長室への移動を指示され、俺はローズの手を取り試験場を後にした。
「う〜む」
「・・・」
部屋についてから、デリジャンは椅子に座りずっと唸っていた。
ローズは学院長室について少しすると、落ち着いた様で一人で立てていた。
「う〜ん、しかしのぉ」
「あの、学院長?」
「ん?なんじゃ?」
「いえ、結局何があったんですか?」
「何がと言われてものぅ」
「司?解らないの?」
「え?」
解らないとはどういう事だろう?
俺にはローズがなぜそんな事を言うのかが解らなかった。
「司の使った魔術で強力な魔空間が発生して、その影響で皆んな倒れたのよ」
「そうなのか?」
「当然じゃない、私だって無詠唱は見た事あるけど、八連詠唱でそれを行うなんて初めて見たわ‼︎」
「お、おぉ」
もう完全に体調は戻ったのだろう、ローズは興奮頻りに、凄い、流石私の婚約者など連呼していた。
(まあ、良かったのかな?)
ローズの様子に俺は少し気恥ずかしくなったが、それでもやはり嬉しかった。
そんな俺は一瞬鋭い視線を感じた様に思いそちらを見ると、デリジャンと目があった。
だが、デリジャンは少しくたびれた様子で、俺は自分の勘違いだと思った。
「で、お主あの魔法どこで習得したんじゃ?」
「いや、自分で創造しましたけど?」
「「え?」」
「ん?どうかしましたか?」
「ふぅ、どうもこうも無いぞ?」
「はぁ・・・」
「確かに八つの詠唱全てが初めて見る物じゃったが」
(それはそうだろう、俺の妄想の産物なのだから)
「それも八連無詠唱とはのぅ・・・」
「八連無詠唱って?」
「・・・」
俺は初めて聞く言葉に聞き返した。
するとデリジャンは一拍置いて語りかけてきた。
そこで語られた無詠唱と連続詠唱の内容を纏めるとこうだ。
1 無詠唱とは魔法陣を描く過程を経ず、魔法陣がそのまま現れる事を言う。
2 魔法陣が現れるのに、無とはどういう事なのか聞くと、詠唱とは陣を描く過程なので過程を経ない、だから無詠唱という事だ。
3 連続詠唱とは複数の魔法陣を同時に描く、詠唱方法である。
4 これもなぜ同時では無く、連続なのか聞くと、魔流脈を流れる魔力は同時では無いと言われた。
5 魔流脈の流れを確認したのか食い下がる俺に、デリジャンはじゃあ好きに呼べと言ってきた・・・、まあ、良いんだけど。
「学院長は現役時代に八連無詠唱って見た事あるんですか?」
ローズが興奮気味にデリジャンに問いかけた。
「ん、いや、無いのぅ。無詠唱は儂の現役時には珍しい技術ではなかったが、連続詠唱は短縮詠唱と通常詠唱を併せて十二連続詠唱が最大じゃったのぅ」
「十二・・・」
「まあ、其奴は己の力を示すためにそれを行い、魔法を当てる気など無かったがのぅ」
昔を懐かしむ様に遠くを見つめデリジャンはそう言った。
(当てる気が無いは豪気な事だなぁ)
「じゃが其奴とて、下級と中級で行ったからのぉ、お主の様に中級のみの八連無詠唱は人類史上初の到達点を名乗って問題無いじゃろう」
「本当ですか‼︎」
「うむ‼︎」
「「やったぁーーー‼︎」」
などと喜んでいる。
ローズとデリジャンが。
俺はというと、意外にも冷静でいた。
(まだ感覚を掴んだ訳じゃ無いからなぁ)
とにかくこの力を自分のものするしかないと心に決めた。
それに・・・。
「そういえば、学院長?」
「ん、どうしたんじゃ?」
盛り上がっている所悪いが、デリジャンには一度我に返って貰う事にした。
「ええ、自分の入学の事ですが・・・?」
「おぉ、そうじゃたのぅ」
そうなのだ元々その為の試験だったので、そこを忘れる訳にはいかない。
「勿論合格じゃよ、より精進していくが良い」
「おお、ありがとうございます」
これでリールやローズの顔をたてる事も出来たし、俺自身も魔法の勉強が進められると一安心した。
隣を見るとローズも嬉しそうにしていた。
「・・・、じゃが、一つ条件がある」
「ん、条件ですか?」
「うむ、お主が使った、龍神結界・遠呂智と言うたか、あれは使用を禁ずる」
「え?」
デリジャンの提示した意外な条件に、俺は困惑した。
禁ずるも何も、あれしか使えないのだが・・・。
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