第15話


 その後屋敷に着いた俺とアンは部屋の掃除を始めた。

 最初俺の部屋を掃除していたのだが、アンが俺の厨二アイテムが入った段ボールに興味を持ち、最初は得意げに披露していたのだが、アンが余りにも乱暴にお宝達を扱い始めたので、アンの部屋の掃除に移る事にした。

 通常リアタフテ家では使用人は、街か屋敷の離れを住居として使用しているのだが、アンはアナスタシアと同様、屋敷の一室を借りる事になった。

 ちなみにアナスタシアは護衛も兼ねてだが、アンはただ寂しいからだ。

 アンの部屋は10畳程度で、俺の使ってる部屋の半分くらいの広さで、家具はベッド、タンス、机、椅子、鏡と一通り揃っていた。

 アンは引越しで家具を運ばなくて済むと喜んでいた。

 俺は女の子なのだから好みの家具に替えなくて良いのかと気になり、リールも其れを勧めたが、アンは使えれば同じと意外にもドライな返事をした。


(まあ、この娘は食べる事と寝る事にしか興味が無いのかもしれないが)


 日頃のアナスタシアを中心とした、リアタフテ家使用人達の行き届いた仕事により、軽い掃除だけで部屋は快適に過ごせる状態になり、アンは疲れたのか椅子でうつらうつらとなり、暫くすると眠ってしまった。

 俺はそのアンをベッドに運び布団を掛け部屋を出ると、丁度ローズを迎えに出た馬車が戻るのが、廊下の窓から見えた。

 俺が出迎えに玄関に行くとローズは、嬉しそうに頬を染めた。


(何でだろうな?俺なんかに・・・)


 人生の中で女性に好意を寄せられる事など無かった俺には、どうしてもローズの反応が信じられなかった。


(同時に信じたいと願っているのだが・・・)


 そんな情け無い事を考えていた俺にローズが付いて来なさいと言った。


「えっ?」

「え?じゃないわよ、約束したでしょう、魔法を見せてあげるって」

「あ、ああ、そうだったな、やっぱりここでは見せられないのか?」

「そうね、扇子で扇ぐ位の風なら起こせるけど、攻撃魔法となるとちゃんとした設備のある所で使うべきね」

「なるほど、わかったよ」


 知識を持った人間がその様に判断したのならば、それに従うべきだろう。

 俺、ローズ、アナスタシアの三人は屋敷の裏手にある、演習場に向かった。

 この演習場は主に、屋敷の者しか使わない為、簡単な囲いはしてあるが、本格的なものよりは手狭との事だった。

 広さ的にはプール二面程度で、的だろうか?鉄製の棒が入り口の先に数本立ち、囲いの内側には、数十本の制御装置を施された魔石の付いた柱が立っていた。


「なあ、あれって制御装置と魔石だよな?」

「ええ、そうよ、ちゃんと覚えていたのね」

「まあな、でも、何の為にあんなに置いてあるんだ?」

「それは、魔法演習で発生する魔空間の影響を弱め、囲いの外にいる魔流脈の弱い人間に負担をかけない為よ」

「う〜ん」

「どうかしたの?」

「すまない、魔法を使う事で魔空間が発生する事はわかるんだが、魔流脈ってのは名前を聞いても良く解らないんだ」

「そうねぇ、魔流脈は人族、亜人、魔物全ての生きとし生けるものが持っている、魔力の血管の様なものよ。例外はあるけど魔力の大きい者、強い者ほど魔流脈も強い傾向にあるわ」

「魔流脈の強さってのは、どういうものなんだ?」

「そうねぇ・・・、魔法を使うっていうのは、体外に魔法陣を詠唱し、体内にある魔力を魔流脈を流し送り出す作業なの」

「魔法陣がドア、魔力が人、魔流脈は廊下って感覚で良いのか?」

「魔法を使う事に関してはその感覚で良いわよ。廊下が狭ければ一度に通れる人も少ないし、床が腐っていれば、人は落ちてしまう、それが魔流脈の強さの一つよ」

「他にもあるのか?」

「ええ、魔空間っていうのは、魔法陣を使い魔力を発射した事で起こる空間の振動の事よ。この振動は魔力が一定以上の者より意識出来て、その中で魔流脈の弱い者は強いダメージを受け、強い者程耐えれる範囲も広いわ」

「なるほど・・・」


(それが昨晩のミンチ発言に繋がるのか)


「そういえば、昨日の夜は制御装置が部屋に無かったが、ローズもアナスタシアも魔流脈が強いんだな」

「あ、そ、それは・・・」

「ん?」


 少し口籠るローズに代わりアナスタシアが答えた。


「司様、ローズ様は強い魔流脈をお持ちですが、私は魔空間は苦手ですよ」

「そうなのか?」

「ええ、昨晩も部屋の外で待っていましたし、それにこれを羽織っていました」

「それは?」

「防魔套です」


 防魔套、アナスタシアがそう言った者は黒いフードで昨晩召喚士達が羽織っていた物に良く似ていた。


「召喚士の・・・」

「そうですね、彼等も強力な魔空間に耐える為に使用していました。もちろんローズ様もです」


 なるほど、改めて思うが召喚の儀恐ろしい儀式だ。

 かなり有望な魔導師であるローズですら、準備をして臨む状況に有無を言わさず巻き込むとは・・・。


(よく今まで召喚された人間が死ななかったな)


 そんな昨晩俺を護ってくれた奇跡に感謝し、俺はアナスタシアに渡された防魔套を羽織った。


「さあ、いくわよっ‼︎」


 ローズが声を上げ身構えるのだった。

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