第14話
という事で、シャリテ商会を後にした俺、リール、アンの三人は街の入り口で待つアナスタシアの下に急いだ。
するとそこには、アナスタシアとかなり良い体躯をした老人が待っていた。
だいぶ時間が掛かったがアナスタシアはその間街で用事を済ませていたらしく、待ち時間はそうでも無かった様で、その時にその老人『アーム』と会ったそうだ。
アームは既に引退したが、リアタフテ家の先代当主からリールの代の初期まで、リアタフテ家の私兵団の団長を務めていた人物で、今は冒険者ギルドのマスターをしているとのことだ。
「冒険者ギルドっ」
「そうです若様」
「いや、だから若様は勘弁して下さいって・・・」
「何を仰いますか、若様」
「・・・」
アームは先程から何度頼んでもこの呼び方をやめてくれなかった。
はぁ・・・。
ただ、やっぱりこの世界には冒険者ギルドがあると知り、俺はかなり興奮していた。
「冒険者ギルドってどんな所なんですか?冒険者になるのに条件って有るんですか?どんな依頼がくるんですか?採取とか討伐とかですか?」
「ホッホッホッ、落ち着いて下さい若様。若様が冒険者は興味がおありの様ですな?」
「勿論ですっ。憧れの職業ですよ」
「うむ、わかりました。では、不肖アーム若様に冒険者ギルドの成り立ちについて説明させて頂きます」
「はい、お願いしますっ」
という訳で、アームが説明してくれた内容を纏めるとこうだ。
1 まず冒険者ギルドとは冒険者ギルド総本部に属するものであり、各国家・地方領に属するものでは無い。
2 ギルドは各都市へのギルド設置・運営に際して利用料を払う必要がある。
3 なお、税は別途発生する。
4 ギルドは各国家に対して、冒険者が探索などで得た情報の一部開示と重要拾得物の優先販売を行う義務がある。
5 各国家は冒険者同士における争いによる傷害・殺人に対して、各国家の司法権よりギルドの判断を優先する事とする。
6 冒険者の一般市民への犯罪行為は市民間における其れよりも、重い罰に問う事とする。
7 冒険者ギルドの依頼は多岐に渡り、採取や討伐だけで無く、各国家間における紛争や果ては畑仕事など、依頼人がギルドの提示する報酬を準備出来れば募集をかけられる。
8 冒険者は13歳を迎えた時点で登録料一万オールを納めれば、一般市民や貴族、王族でもなる事が出来る。
そうか、王族でもなれるのかぁ・・・。
一万オールというのも、かなり手頃な金額に聞こえたが、気軽に登録して、もし一般市民と争いになり、間違いを起こしたら厳しい判断が下される事を考えると簡単に登録するべきでは無いのかもしれない。
別の考え方も出来るが、自分の気に入らない相手が冒険者にいた場合、襲撃等は可能なのだろうか?
アーム曰くそれはNOである。
まずその場合加害者が一般市民であった場合は、各国の法により他の事件と変わらぬ判決が下される。
加害者が冒険者の場合は、ギルドにより重い判断が下される。
ギルドの冒険者同士の争いへの判断は、加害者側の力による解決が止むを得ない場合にのみ考慮され、ただ気に入らない等の理由では迎え撃った相手側に有利な判断が下されるとの事だ。
もう一つ引っかかっている事がある。
「アームさんは何故冒険者ギルドのマスターが出来るのですか?」
「何故とは酷いですな〜、若様。儂は少し傷つきましたぞ」
「あ、いえ・・・」
「ふふふ」
傷ついたと言いつつも、全く気にしてる様子が無いのだが・・・、なお、リールは面白そうに笑っていた。
俺が気になった部分は、説明の内容だと基本的にギルドは各国家から独立した存在なのに、領主家の私兵団の団長を務めた人間が組織の代表になるのは問題無いのだろうか?
その事を聞くとアームは旧友からの依頼だと答えた。
アームはリアタフテ家に仕える前は冒険者をしていて、一流と呼べる実力を持っていた。
だが、ある時パーティメンバーのミスで死地に追い込まれ、何とか自分以外のメンバーを逃し、自らの命は諦めかけたその時に、偶然その場に通りかかったリールの父である先代当主より救われ、その恩を返す為に押しかけて配下になった。
先代引退後、リールの領地運営が軌道に乗るまでリアタフテ家に仕えたが、当時冬の時代の訪れていた領内のギルド運営を、元パーティメンバーである、現総本部のお偉いさんに依頼されギルドの充実が領内に与える好影響を考えこれを受けたとの事である。
(なるほど、老いたりとはいえこの身体つきはそういう所から来ていたのか)
「如何ですかな、若様もギルドに登録してみては?」
「そうですねぇ・・・」
まあ、一般市民と揉めて暴力で解決する様なつもりも無いし、一万オール位なら借りても仕事をして返す事も出来るかと思い、俺は前向きに考えると、返答しておいた。
(何より異世界と冒険者はワンセットといえるからな)
「では、お待ちしておりますぞ」
「はい、その時はよろしくお願いします」
「そうかぁ、司君も冒険者になるのねぇ」
「そうですね、憧れはあります」
「ふふふ、男の子ねぇ」
「あ、ちなみにアンは冒険のお手伝いは欠片ほどもするつもりは無いですよ」
「ああ、大丈夫だよ」
「はぁ・・・、この娘は」
直ぐ様予防線を張ってきたアンに、アナスタシアは溜息を吐いた。
アナスタシアからすれば、奴隷は主人の仕事を全て手伝うべきなのだろうけど、俺は適材適所であるべきだと思う。
(それに、アンを冒険に連れて行ったら、確実にパーティを命の危機に晒す失敗をするのが目に見えているしな)
「ニャ?」
アンは勘だけは良いのか、俺に何か問いたそうな視線を向けてきたが、俺はスルーする事にした。
「ローズちゃんもねぇ、冒険者になりたがっているのよぉ」
「ローズもですか?」
「えぇ、私とダーリンも冒険者だったからぁ」
「えぇっ、リール様が⁈」
「そうよぉ」
つい、朝食時の会話も忘れてオーバーリアクションで、驚いてしまった俺にリールは特に気にする様子もなかった。
(そういえば、リールは優れた風の魔導師なのだったな・・・)
「うむうむ、二代続けて夫婦で冒険者とは、アームは目頭が熱くなってしまいますぞ」
「は、はぁ・・・」
「ふふふ、アームったらぁ」
どこに感動する所が有るのかは解らなかったが、アームの瞳には確かに光るものがあった。
そんな事を話していると、思いの外時間が経ってしまい、俺達はローズの迎えもある事からアームと別れ、屋敷に帰る事にした。
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