第12話


 そこからは怒涛の如く時間が過ぎていった。

 最初に室内に入って来たのは、狼の獣人の20

歳の女性だった。

 彼女は家事・戦闘共に熟せる奴隷で、人族社会についても理解が深い、シャリテ商会の一押しとの事だった。

 面談中も姿勢を正し、こちらの質問にも真摯に応える姿勢は確かに好感が持てた。

 なお、顔も理想のお姉さんという感じで整っていて、スタイルも長身でスラリとしでいるが、出るべき所は出ていて、イメージ的にはハキハキしたアナスタシアという感じだった。

 次に部屋に入って来たのは、熊の獣人の27歳の男性だった。

 彼は戦闘と肉体労働を希望する奴隷で、おっとりとした雰囲気の優しそうな男性だった。

 ただ、希望職種に似合いその肉体はかなり大柄で、聞いてみるとなんと2メートル23センチと言い、俺がつい「人間山脈」と呟いてしまうと、なんとあだ名が山脈らしく少し嬉しくなった。

 紹介された中では唯一の男性で、女性慣れしてない俺には一緒に過ごすのが、気楽な相手かもしれないと思った。

 最後に入って来たのは、小人族の30歳の女性だった。

 俺は最初彼女の事を10歳位の女の子だと思い、こんな幼児まで奴隷にされるのかと少し悲しい気持ちになったが、年齢を聞いて驚いた。

 彼女は見た目はかなり小柄で中性的な美少年とも美少女とも取れる容姿をしていた。

 なお最初彼女を子供だと思ったのは、三人の中で一番落ち着きがなく、こちらの質問にもまともに答えられなかった。

 ただパランペール曰く、彼女はかなりの魔導師らしく、生活面やダンジョン探索、冒険に伴う野営などに便利な魔法が一通り使えるとの事だった。

 因みにスポンサーであるリールは彼女の容姿を甚く気に入った様子だった。

 一通り面談が終わり、俺とリール、パランペールは昼食のうどんを摂りながら、商談を進めた。


「どうだろう、司君、うちのメンバーは?」

「う〜ん、そうですねぇ・・・」

「リールの依頼だからねぇ、もちろんシャリテ商会の提供出来る人材はサンクテュエールでもトップだと自負しているが、その中でもそれぞれの道のトップを紹介したと思うよ」

「はい、それはもちろんなのですが・・・」

「何か心配事でもあるのぉ?」

「う〜ん」


 心配そうにリールが、覗き込んできたが心配事は二つだった。

 一つ目は奴隷契約内容だ。

 契約するという事は、原則その相手との一生の付き合いを意味する。

 奴隷は会社の様に上手くいかなくて転職という訳にもいかないし、また主人になる者も奴隷を上手く扱えないからといって簡単に返品をすれば世間の笑い者になってしまう。

 特に俺の場合は会社でも、ただ使われるまま流されるまま生きてきたため、上司としての適性は皆無と言って良いだろう。

 そして俺と奴隷の契約に際しては、リアタフテ家の名前を使わして貰う事になる。

 リールとパランペールの関係、リアタフテ家の家名、契約する奴隷の未来、その全てが俺に二の足を踏ませていた。

 二つ目はズバリお金だった。

 紹介された3人の価格は、紹介順に三千万オール、一千万オール、二千万オールだった。

 なお、王都で働き盛りの一般市民の男性の平均年収が、四百から五百万オールの間とお金の価値は円に置き換えて考えても良い様だ。

 ただ年収一千万オール以上が必要な様に、奴隷には衣食住を主人が提供する必要があり、定期的に伝染病対策の予防や、健康診断などかなり継続的な出費がある様だ。

 それらを少しは前向きになってきてはいるが、まだ婚約についての返答もしっかりしていない俺が負担して貰うのはどうにも気が引けた。


(きっと、リールやローズにしてみれば、俺に充足した日々を過ごさせるのが、貴族として当然の嗜みなのだろうけど・・・)


 そうは言っても、俺は一般人生まれの、庶民育ちなのである。

 それにこんななりをしていても、中身はアラフォーのおっさんなのである。

 小心者と言われようと、流石にそこまで甘える訳にはいかないだろう。

 俺が断る決心を固め、その事を告げ様とするとパランペールから意外な名前が出た。


「そういえば、アナスタシアは元気にやってるかい?」

「えぇ、うちの家はアナスタシア無しでは回らないくらい良く働いてくれているわぁ」

「そうかい、彼女がローズと契約を結んでもう11年になるのかなぁ?」

「そういえばそうねぇ」

「あのぉ」

「どうかしたかい、司君?」

「アナスタシアはパランペールさんの所に?」

「ああ、そうだよ、彼女も今のアンと同じ様に僕がある所から保護して、縁あってローズに預ける事にしたんだ」

「そうだったんですか」


 アナスタシアも獣人なのだから、奴隷だとしても不思議は無かったが、パランペールの所に居たとは・・・。

 だが保護したという事は奴隷では無いのだろうか?


「アナスタシアはローズの契約奴隷という事になるのですか?」

「ああ、僕やリール、ケンイチは契約には拘らなかったが彼女達二人が契約に拘ったんだよ」

「何故ですか?」

「それは、・・・僕にも解らない」

「・・・」

「そうなんですね」


 リールも口を開く様子が無い事を見ても、思い当たる節はあるが、それをおいそれとは答えるつもりは無いのだろう。

 それを昨日会ったばかりの俺がしつこく聞くのもおかしな話なので、大人しく引く事にした。


「司君はやはり、奴隷には抵抗があるかな?」

「は、はぁ・・・」

「きっと君が二の足を踏んでいる理由は、一つは少年故の潔癖さ、もう一つはお金だろう?」

「・・・」


 お金は当たっているが、少年でも潔癖でも無いんだよなぁ。


「司君?お金の事なんて気にしなくて良いのよぉ」

「は、はぁ」

「リール、そうは言っても性格なんて簡単には変わらないさ」

「う〜ん、でもねぇ」

「はは、じゃあこういうのはどうだい、司君?」

「えっ?」

「うちのアンと契約してくれないだろうか?」

「え、えぇ〜〜〜」


 パランペールの余りにも意外な提案に、俺は絶叫をしてしまった。

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