第7話

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 部屋での騒動の後、俺はアナスタシアに連れられて食堂に移動した。


「あらぁ、司君おはよぉ」

「あっ・・・、おはよ」


 リールとローズは既にかなり大きめの食卓に着いており、俺が入ると挨拶をしてきた。


「おはようございます」


 テーブルの上には長めのパンに白身魚のカルパッチョ風のもの、スープはトマト、ニンジン、タマネギを卵でとじていた。

 それらに全く手が付けられていないところを見ると、俺の到着を待っていてくれたのだろう。

 俺は素早くローズの向かいに腰を下ろした。


「すいません、お待たせしました」

「良いのよぉ、昨日は色々あってくたびれたでしょうしぃ」

「あっ、はい、ありがとうございます・・・」


 リールが勘違いしてくれたので、俺は多くを語らない事にした。

 とはいっても何があったのか俺も殆ど解っていないし、一番状況を把握しているであろうアナスタシアは、俺を食堂に送り届けた後、仕事があるそうで何処かへ行ってしまった。


「ではいただきましょうかぁ」

「「はい」」


 リールの言葉に、俺とローズの声が揃ってしまい、一瞬視線が合ったがローズはすぐにプイッと横を向いてしまった。


「ふふふ」


 そんな様子をリールは嬉しそうに眺めていた。

 俺はというと、スープにスプーンを入れ、取り敢えず腹ごしらえを優先する事にした。


「そういえばぁ、昨日はゆっくり休めたかしらぁ?」

「ええ、・・・あっ、そういえば」

「何かしらぁ?」


 俺は朝のドタバタで聞き忘れていた昨日の疑問を聞く事にした。


「昨日の夜なのですが、アナスタシアに部屋の灯を落として貰ったのですが、その時彼女が触れた石のような物って・・・?」

「あらぁ、そうだったわねぇ。ダーリンも知らなかったものねぇ、あれは魔石よぉ」


 薄々感じていたがやはりそうらしい。

 だが俺は説明を受ける為、初めて聞く単語の様な対応をした。


「魔石、ですか?」

「そうよぉ、アナスタシアはぁ、操作系の魔石を使ってぇ、灯の魔石を点したのよぉ」

「操作系と灯ですか?」

「えぇ」


 魔石に種類って、普通は火とか風とかじゃないのか?

 そんな疑問を抱いていると、リールは俺について来る様に促し、席を立ち部屋の入り口へと移動した。

 するとそこの壁には昨晩見たものによく似た石が埋まっていた。


(あれ?これって昨日は気が付かなかったけど、よく見ると周りに装飾が施されているな)


 新たな疑問が浮かんだ俺にリールは説明を始めた。


「これが操作系の魔石よぉ」

「なるほど」

「この魔石とぉ、天井にある魔石を魔力回路で繋げてぇ、部屋を明るく照らしているのぉ。」

「魔力回路ですか?」

「えぇ、魔力回路は複数の魔石を同時に使う時にぃ、魔石同士を繋ぐ物なのぉ」

「灯の魔石だけでは使えないのですか?」


 当たり前の疑問だったが、リールはニコニコしながら背伸びをし、その手を天井に向けた。


「え〜と、魔石は直接触れないと使えないのですか?」

「正解よぉ」

「は、はははぁ」


 リールの学校の先生の様な態度に俺は少し脱力したが、理由はわかった。


「ではこの魔石で明るさを調整するわけですね」

「そうよぉ、ローズちゃんちょっとごめんねぇ」

「構わないわ」


 リールは食事を続けていたローズに声を掛け魔石に触れた。


「消灯」

「おっ」


 解っていたことだが俺は驚いて声をあげた。

 リールが面白そうにしながら、小点灯、点灯と続けて言うと、灯は豆電球、通常と順に点った。


「どぉ?司君もやってみるぅ?」

「え?良いんですか?」

「もちろんよぉ」


 そう言われて俺は少し興奮していた。


(これもある種の魔法って言えるものだよなぁ。魔法初体験かぁ)


 そんな事を思いながら俺は魔石に手を翳した。


「消灯」


 灯が消えた。


「小点灯」


 豆電球になった。


「点灯」


 灯が点いた。


「ふふふ」


 俺の興奮に気づいたのか、リールはニコニコと笑っていた。

 俺は少し恥ずかしくなり、照れを隠す様に質問をした。


「そういえば、魔石には操作系と灯以外にどんなものがあるのですか?」

「そうねぇ、飲み水にぃ、空調にぃ、料理用の熱にぃ、他にも生活に必要なものは一通り揃っているわよぉ」

「そうなのですか・・・」


 魔石、えらく生活感に富んでるなぁ。

 俺がそんな感想を抱いていると、一人離れた場所にいたローズから意外な声がかかった。


「お母様、その説明だと司が勘違いするわよ」

「えっ?勘違いって、どう言う事だ?」


 リールはそうなのぉ、と言い俺の方を見て首を傾げたが、俺が解る筈も無く、ローズからの説明を待った。


「日常生活に使う魔石は属性を持たない物の中で、下級魔石から中級魔石迄よ。一般的に下級は庶民の家庭で使い、中級は貴族が使うわ」

「あらぁ、説明しなかったかしらぁ?」


 いや、一言たりとも言ってない。

 下級と中級というのは解るが、属性を持たない?というのは無属性だろうか?


「今ザブル・ジャーチで確認されている魔石の種類は風・火・水・土・雷・氷・聖・闇とそのどれにも属さないもので9種類、其々に下級・中級・上級があるわ。属性を持つ魔石は通常戦闘に使う事が多く、属性が無い物の上級は国が管理をし目にする事は殆ど無いわね」

「なるほど」


 やっぱり属性持ちの魔石もあるんだな。


「じゃあ、属性を持たない魔石の使い分けはどうやってやっているんだ?」

「その壁の魔石に装飾が施されているでしょう?」

「ああ」

「それは魔工技術者が作った制御装置で、それによって使いわけがされているわ」


 なるほど、この装飾にはそんな意味があったのか・・・。


「そういえば魔石って作れるものなのか?」

「人工魔石の事?このサンクテュエールにはそんな危なっかしいもの無いわよ」


 人工魔石、その言葉を口にした時ローズが一瞬嫌そうな表情をした。


「魔石を作るって、そんなに危険を伴うのか?」

「まあね・・・。基本的魔石は魔力濃度の濃い魔床を探して、ダンジョン精製魔法でダンジョンを造りその中から手に入れるのよ」


 話をはぐらかされたが、ダンジョン精製魔法に惹かれた事もあり俺はその流れに乗った。


「ダンジョンは魔法で造れるのか?」

「ええ、空間魔法の一種で、特殊な才能を持つ複数の魔導師によって造られるわ」

「どれくらいの人数で?」

「それは・・・、魔床の規模によるわ。司はダンジョンを造りたいの?」

「う〜ん・・・」


 造りたいかと聞かれればどうなのだろう?

 ダンジョン運営もののネット小説などもあるが、やはり魔法を覚えるなら強力な攻撃魔法を覚えてダンジョンを攻略する側でいたいかな?


「やっぱり攻撃魔法的なものの方が興味があるかな?」

「そ、そう?そ〜なんだぁ」

「?」


 何故だかローズがソワソワしだしたが、これはどういう事なんだろうと思っていると、リールが答えを示してくれた。


「ローズちゃんはぁ、風属性の魔法が得意なのよぉ」

「なるほど」

「得意だなんて、お母様に比べたらまだまだよ」


 まだまだと言いながらも、ローズは満更でも無い様子だ。

 まあ昨晩のリールの説明で、ローズは魔導師として高い才能が有るのは知っていたし、リールも国から認められる能力が魔法の才という事なんだろう。


「そうだわぁ、折角だから司君に見せてあげたらぁ?」

「そ、それは・・・」


 リールの提案にローズは、チラチラとこちらに視線を送ってきた。

 なにやら面白そうにしているリールの様子に少し落ち着かなかったが、俺は魔法への好奇心からその提案に乗る事にした。


「そうだな、頼めるか?」

「そ、そう・・・、まあ、そんなに言うなら・・・」

「そうか、ありがとう」

「んっ」

「ふふふ」


 ローズは短く、でも嬉しそうに返事をした。

 その後三人で食事を摂り、ローズが学院から帰宅後に魔法披露してくれる事になった。

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