瞬間記念日

坂本蜜名

その瞬間を待って

1999年12月31日

深夜 23:56

「本当に、大丈夫ですかねぇ」

「ここまで組み上げたプログラムに、問題はない、はずだ」

「そうっすよね。何度も検証しましたしね」

「そうそう。まぁ、問題が起きてもすぐに対処出来るように、俺らがここにいるしな」

「今年は正月返上っすねー」

「は?俺は明日から休むぞ?」

「えー?!先輩、ずるいっすよー」

「うるせぇ。ここ数日、徹夜続きだったんだ。正月に休むくらい当たり前だろう」

「でも、万が一問題が起きたら?」

「そん時は、解決してから休む」

「まぁ、ほっとく訳にはいきませんもんねー」

「ああ。ほっといたら、この国の金融や流通はあっという間に機能しなくなっちまうからな」

「しっかし、これまではひたすらデータ修正しては検証し、またデータ修正してってやってきましたけど、本当に問題ないかどうかはその時にならないと分からないってのも、もどかしいですねぇ」

「まぁ、待つことも仕事のうちだ。それに、なんの問題もなければすぐ帰れるって社長が言ってたしな」

「え?そーなんすか?」

「さてはお前、朝礼の時、寝てたな?」

「だって、徹夜明けで朝礼なんて、やる意味もわかんないなーと思って」

「お前なぁ……まぁそう言いつつ、仕事は出来るから、タチが悪いというか、なんというか」

「ん?なんか言いました?先輩?」

「何でもねぇよ!」


23:58

「先輩、明日からの休みって、実家帰るんすか?」

「いや、帰らないけど。だって、北海道だぜ?」

「あー。この時期に帰るのは、大変そうっすね、確かに」

「今年は大晦日まで仕事あるし無理だって言ったら、親もすんなり納得してたから、明日からは家でのんびりしようと思ってる」

「ふーん。一人で?」

「そりゃ、独身で彼女もいねぇからな」

「まぁ、先輩オタクっぽいから、彼女とかいねーのは、わかってますよ」

「おま、失礼な奴だな。俺だって昔は……」

「居たことあるんすか?彼女」

「……画面の中には」

「あー、ギャルゲーっすね、わかります」

「わかるのかよ、マジかよ」

「あ、先輩、あと10秒っす!」

「げっ!お前とバカ話してる場合じゃなかった!」


10…9…8…7…6…5…4…3…2…1……0

『HAPPY NEW YEAR』


「……問題、なさそうだな」

「……そうっすね、確かにプログラムした通り、作動してます」

「よっしゃー!!」

「やりましたね!先輩!」

「連日徹夜で頑張った甲斐があったな!」

「はい!」

「よし!今年はなんか良い年になりそうな気がしてきた!」

「そうっすね!じゃあ、先輩、さっそくイイコトしましょうか?」

「へ?何だよ、イイコトって」

「ふふふ、そんなの決まってるじゃないですか」

「おい、待てお前、そんなまさか、え?マジかよ、俺のことを?待て、心の準備が」

「……何ブツブツ言ってんすか?これから、飲みに行きましょって話っすよ?」

「あ、何だ、飲み会か」

「二人で、ですけどね」

2000年1月1日 後に結ばれる二人の記念日

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瞬間記念日 坂本蜜名 @mitsuna

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