勇者パーティーの最後の5分間

Sin Guilty

勇者パーティーの最後の5分間

 ――なんとか持った。


 これが今の僕の正直な気持ちだ。


 最果ての迷宮、その最奥で対峙するのは最後の敵、世界を滅ぼさんとする狂乱の魔王。

 そして僕はそれを討つことを期待されている『勇者の剣』を抜いた者――つまり勇者だ。


 持ったからには必ず僕が勝つ。

 僕が抜いた『勇者の剣』の力は、そういうモノだからだ。


 対峙した敵を、必ず倒せる力を発揮する。

 ただし時間制限あり。


 その時間制限とはつまり、僕の寿命だ。

 ご丁寧に視界の端に表示されている残り時間はあと5分。


 ――充分だ。


 その5分を使い切れば僕は死ぬ。

 そりゃ進んで死にたいわけじゃないけれど、その対価が『世界』だというならまあ――いいか。


 いやそうじゃない。


 事ここに至ってなお、しかも内心でさえ自己欺瞞を止めない自分にちょっと笑う。


 僕の背には、『勇者パーティー』と称される仲間たち。

 憧れだった聖女様と、恋敵である剣聖野郎と、師匠でもある大賢者様。


 世界のため、なんて嘘だ。


 僕は力を持つがゆえに『救世』を押し付けられた大事な仲間たち――この旅の最初から大事だったわけじゃもちろんないけど、今は心の底からそう思えるようになった――のためなら、たぶん死ねると思うんだ。


 より正確に言うなら、本来なら口もきくことさえできなかった聖女様のために。


 自惚れではなく、なんとか互角の戦いを出来ていたと思う剣聖野郎に不戦勝されるのは業腹ではあるが、まあしょうがない。


 我ながららしくないとは思うけれど、僕とじゃなくても聖女様が幸せならいいかと思ってしまった。


 剣聖野郎ならまあ――その辺は間違いない。


 僕が居なくなったとしても、狂乱の魔王さえ倒してしまえば他のどんなものからでも聖女様を守り抜いてくれることは疑う余地もない。


 だから僕は、ここで最後の五分を使い切る。

 世界が滅ぼされたら、幸せもへったくれもないもんな。


 ハッタリと外連味で圧倒的な力を示し、頭のいい狂乱の魔王に配下の逐次投入の愚を悟らせ、全戦力を一気投入させることができたのが大きい。


 勇者対策に限れば、戦力の逐次投入で連戦させるのが正解だったのだ。

 戦って勝つのではなく、負け続けても僕の残り時間を削りきれば勝ちなのだから。


 だが派手な力を見せたことによって、狂乱の魔王も初手から全力で来るだろう。

 だから五分もあれば充分だ。


 さてはじめようか、狂乱の魔王様。


 貴方が聡明で助かったよ。







 こうして命を燃やし尽くし、狂乱の魔王を討った勇者は死を迎えるはずだった。

 だが聖女、剣聖、大賢者がその全ての力を犠牲にし、ただの人に堕ちる代わりに勇者の命は長らえる。



 奇跡は起きるものではない、人の意志によって起こすものなのだ。







 ――救い無き、後日譚。







 狂乱の魔王を討伐し、力を失った勇者パーティーはその人気を疎んだ権力者たちに、無実の罪を着せられて処刑されることになる。




 死までの五分間に、それぞれが何を思ったのかを知る者は誰もいない。




 生き残った一人が、これから何を為すのかも。

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