第9話 香ばしい茶の香りは、舞い上がる煤に消える

 勇者が焼かれ4時間たった頃・・・・


「ガシャアッッ!」


 勇者を縛り付けていた柱が燃え崩れて灰が舞う、全く不愉快な


「私の紅茶にゴミが入ったぞ」


「直ぐにお取替えしますッ」


茶菓子ティーフーズにもホコリがついてしまった。食器ごと取り替えてくれ」


「はいッ!」


 焼くのをただ待っていても暇なので、勇者を引き渡した時の乗賞金を使い、食器類や食品も新規に買いそろえ、臨時の召使いを雇入れたのだが…、良く働くがどんくさい、所詮は人間か


「新しいお茶をご用意しました。せっかくですので茶葉を変えてみたのですが、お口に合いますでしょうか」


「うむ、よく気が利くな。・・・なかなかだ」


 人間界産の田舎茶葉にしてはだが


「ありがとうございます。食事の方ももうすぐ出来上がりますので、しばしお待ちを」


 焼かれる勇者を肴にお茶を楽しんでいたのだが、この優雅な時間の終わりを告げる雄叫びが響き渡った


「ッッッぷふわぁあ! げほげほ! 苦しいわボケ!だから火の中は嫌なんだ!」


 火の中から勇者が飛び出し転げまわりながら大きく息を吸って叫んでいた。処刑人には気の毒だが、勇者にとっては炎の熱より燃焼によって酸素が絶たれた事の方が問題だった様だ


「静かにしたらどうだ、新しい茶にまたホコリがかかるだろう」


「あん!?・・・ああ!!ずっと見物してやがったのか魔ぉッッ」


 勇者が余計な事を喋り出しそうになったので、魔力で首をクイっと絞めて黙らせてやった。


「バルト様、新しいお食事をお持ちしました」


「ご苦労、だがもう結構だ。ショーは終わりの様だからな」


「さようでございますか・・・」


 首から魔力を話してやると勇者が途端に吠えてきた


「げほッ! バ、バルト? いきなり何しやがる!!」


「貴様が余計な事を言おうとしたからだ」


「余計なってバルトって本名じゃねえか! 隠す気ないだろ!」


「知ってる者は少ない、いつも役職で呼ばれていたからな。貴様もそうであろう勇者よ?」


「そこそこ名前で呼ばれてたよ俺は!」


 私が勇者と話していると、召使いが勇者に気付いてあたふたしていた


「ど、どうされましょうバルト様! 焼かれたはずの罪人が! 役人方もかえられてしまっておりますし!」


 役人どころか見物人ももう居なかった。人道りも少ない


「落ち着け。この町の役人共め、勇者を仕留めきれないと判断して見てみぬふりをしうやむやにする気か…」


「バルト様ッ!」


「だから落ち着けと言っている。貴様の仕事は終わりだ、買いそろえたガラクタはもう要らぬ、お前の好きにしろ」


「よろしいのですか!?」


「ああ、処分する費用も含めて大目に渡しておこう」


「ありがとうございます。短い間ではございましたが、お仕えできて光栄でした。まるで王のそばで働かせてもらっているような・・・」


 召使いの言葉を聞いて、それはそうだろうと思いながら金を渡していると、その召使いに勇者は話し掛けた


「俺の事はもういいのか爺さん?」


「・・・・私は何も見ておりません」


「はぁ? いやでも…」


「いえいえ! 浮浪者を高貴な方が施しをしているところなど、何も珍しい光景ではございません! では、私はこれで失礼いたします」


 そう言って元召使いは足早に立ち去って行った。あの言動、どうやら多めに金を渡し過ぎたせいで口止め料と思ってしまったのだろう。しかし、まあ


「浮浪者か…、全裸の煤まみれの人間と一緒にされても浮浪者も迷惑であろうな」


「ほっとけ! それより魔…、バルト! じつは話があ・・・」


 勇者が何かを話そうとしたが、気にを割くような女の悲鳴でかき消された


「ぎゃあああ! グールよ!」


「誰がグールだ!」


「あ、しゃべった。ごめんなさい私ったら」


「まったく」


 煤だらけのせいで勇者の正体を分かっていない様だ。ついでに女の不愉快な言動に私が訂正を加えてやろう


「こら、そこの小娘! この汚物と食人鬼を一緒にするな!不愉快だ!」


「それは俺をフォローして言ってくれてるのか・・・・。居ない!? どこだバルト!」


 私は気配を消し、その場から立ち去ってやった。これ以上勇者に付き合う義理も無い。文字道りの不完全燃焼だ、新しい玩具を探そう

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