第2話 勇者討伐隊の気怠い行進
勇者が凶悪手配犯になっている事を知り、私は勇者討伐を決めた。
「さて、早速行動に移すか・・・。いや待て、まずは前菜だ」
周りに意識を向ければ、賞金に目がくらみ欲望をたぎらせている者の気配を察する事が出来る。その中で直ぐに行動を起こそうな人間を探り当て、意識を張り見張る事にした
「落ちぶれたとはいえ、勇者がそこらの雑兵に負けるとは思えん。・・・・まずは欲深き者どもが勇者の餌食になる様を楽しむとしよう」
私は、初めて親に買ってもらったペットの魚に、パンくずを握りしめてエサを与える機会をうかがう子供のような気持ちを抑えて人間共を見守った
「行くか」
数日待つ事、パンくずの一団の一つに動きがあった。森の中の古城に勇者らしき人物が住み着いていると言う情報を掴んだ様だ
「さて、私も後をついて行くとするか」
私は悟られないように気配を殺し、勇者討伐隊について行った。そう・・・・・
「へへへ、これでうまく
「何でもいいからよ、喰いぶちが稼げりゃあ良いさ」
「ここんとこ、まともな飯食ってねえからな」
「もし獲物が居なくてもよ、猪でも突き殺して持って帰ろうぜ」
・・・こんな無駄話が聞こえる程の至近距離で私は追跡している。奴らの真後ろに居ると言っても過言では無い。気配を消して1人で歩いていると、どうしても少しは目立ってしまう、だがコイツ等の後ろにピタッとついて行けば周りの人間からは私はコイツ等の仲間の1人にしか見えないだろう
「・・・・・」
私は、もし事情を知ってる者が私を見たら非常にシュールな光景に見えるであろうなと思いながらついて行った。奴等の雑談が少々うるさいのを我慢して
「でよう、この前の女がさ」
「あ~、あの娼婦か? それがどした」
「どうせフラれたとかいう話だろ? そんな話ばっかじゃねえか」
「アナタなんか、お客としてもお断りよってか? ハハハ!」
「ちげえよ!」
このバカ共、もう森に入ったというのに警戒心が無さ過ぎる。4パーティで縦隊する際は、先頭が前方と足元の警戒、2人目が先頭の肩越しに前方を警戒しつつ上を警戒、3人目が左右を、そして最後尾が後ろを警戒しながら進み死角を無くすように進むのが基本なのだが、それが全く出来ていない
「え、マジ?」
「ああ、大マジだ」
しかも列の間隔が狭すぎる、これでは奇襲された際に対応が遅れるだろう。オマケに自信があるからなのか一番背の高い大柄の男が先頭に立ってるしまつだ、アレでは巨漢の身体が邪魔して後ろの人間が前方をを見る事が出来ない
「何でわかんだよ」
「実際にその・・・見せてもらったからな」
「うわぁ、マジか・・・。なんつうか、フラれて良かったな」
まったく、コイツ等は武器を持っただけの素人か? いや、見たところそれなりに戦闘経験はありそうだ。恐らく大部隊での戦闘経験は有っても、今の様な少人数での戦闘経験はないのだろう。職にあぶれた元正規軍か、しかしこれでは盗賊の方がマシなレベルと言える
「まさか貴族のご令嬢が馬と駆け落ちして屋敷を飛び出し、日銭を稼ぐために娼婦になってるとは」
「ご令嬢って話は胡散臭くね? ただの馬フェチかも」
しかし退屈だ、つまらん無駄話ばかりしてないで、いかしたジョークの一つでも言ってほしいものだ。隙だらけの貴様らに甘えて紅茶でも入れる事にしよう。多少無茶をしてもこれならバレないだろう
「しかし腹減った~」
「言うな、余計に空腹になる」
私はマントを魔力でテーブルの様に広げた後、ティーポットを取り出し中に水と紅茶を入れた。私がティーポットに触れているだけで中の水は沸騰し茶葉が踊る。そしてティーカップに紅茶を注いだ。食欲をそそる
「なんか、急に腹が減り出した・・・」
「なんかいい香りがしないか?」
「お前がご令嬢の話するから、紅茶だの洒落た臭いがするような気がするんだぞ、責任取りやがれ」
「俺のせいかよ! ・・・あー!俺まで匂って来る気がしてきたぜチキショウ!」
紅茶だけでは味気ないので、私は魅惑の笑みを浮かべて獲物を誘う。すると直ぐに私の指に小鳥がとまった
「ふっ…」
小鳥にそっと息を吹きかけると、羽毛が消し飛び小鳥は丸焼きになった。絶対的強者の前では下等生物は己が死ぬ定めであろうとも逆らうことは出来ないのだ
「肉に焼ける匂いまでしないか?」
「止めろ!本当にしてくる気がするだろ!」
焼いた小鳥を皿の上に乗せ香辛料をたっぷりと振りかける。即席だが良い軽食が出来上がったのではないかな
「なんかスパイスの香りまでしてきたぞ!?」
「俺…、スパイス効いた料理なんて食った事すらねぇよ・・・・」
「もう我慢できん! どっかに食えるもんは無いかぁ!?」
なにやら人間共が混乱しているようだが・・・、気にする事は無い。テーブル代わりのマントの上に並べたティーセットを楽しむ事にしよう、椅子に座る様に空中をのんびりと浮遊しながらリラックスして
「あ!見ろ!ニワトリだ!」
「ニワトリ?」
前を見ると、確かに道の真ん中にニワトリが居た。この様な人里離れた場所にも関わらずだ
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