隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている!
軽見 歩
第1話 魔王の憂鬱
魔王、それは魔族を統べる者。
余は魔王シュエル・バルト、己が力で魔族をねじ伏せ、統率し、軍を率いて人類に戦いを挑んだ男
「戦況は?」
「我が軍の圧勝です、魔王様」
「そうか・・・」
余は玉座に座りながら部下と何時ものたわいもない会話していたが、内心飽き飽きしていた
「はぁ・・・」
気まぐれで受けた魔王の座、初めは人間共との戦いに心が踊った物だが、こちらが優勢になるにつれ強者が減っていき、最近ではただの蹂躙するだけの作業と化していた
「ふむ」
しかし弱くなった人間共と比べ、私に使える下級魔族共はなんと生き生きとした事か。まったく、雑用しか出来ぬ下等の分際で。そんな事を考えていた余は、たわいも無い事を思いついた
「ひ弱な人間共と戯れるより、貴様らと遊んだ方がまだ張り合いがありそうだな」
「ハハハ!そうかもしれませんな! 軟弱な人間共め・・・」
余はその者の笑顔が
「可笑しいか? お世辞でもなく本心で笑えているなら羨ましいよ。余は退屈で仕方がない」
「魔王…さま?」
余の言葉を聞き、呆けた顔で周りの者どもが余を見ていた。まったく、気の抜けた連中だ。失笑する気も起きぬというもの
「者ども、余の前に跪き、その愚鈍な首を垂れるがいい! さすれば、上物の酒を寝かせる様に、じっくりと優しく丁寧に・・・・滅してやろう」
「魔王さ――――――――――……・・・・・・ッ!」
余はそう宣言し、目に入る者を撃滅した。時には焼き、時には凍てつかせ、切り裂き、飢餓させ、すり潰し、突き落とし、痺れさせ、窒息させ、殴り、引き千切り、締め上げ、蹴り飛ばし、齧り、衰弱させ、縫い付けて、壊し、殺し、殺戮し!
「アハハハハハハハ!」
気が付けば魔王軍は壊滅していた。余の手にかかった者は弱者ばかり、それなりに歯ごたえの有りそうな者は余の目に入る前に雲隠れしてしまった。まあ、余が見込んだ連中ではあるのだから、それぐらいの生存能力は有って当然なのだが
「はぁ・・・」
こうして私は、今は世界を気ままに旅をしながら隠居生活をしている。こうしていた方が玉座に座っていた頃よりはマシなのだから、皮肉なものだ
「余と競うのに値する者が居なくなった時、余の生は終わっていたのかもしれんな・・・」
そうぼやきながら宿で紅茶を啜っていると、広場が何やら騒がしくなっている事に気付いた
「さて、何事かな?」
私は退屈しのぎに広場に向かうと、広場では何やら演説のようなものが開かれていた。しばらく待っていると如何にも貴族上がりのいやらしい兵士が口を開いた
「この近くに凶悪な指名手配犯が潜伏しているという情報が入った。この者を見たものは最寄りの詰め所に報告をする様に」
別の兵士が似顔絵の描かれた手配書を掲げ、また別の兵士はその手配書を民衆に配り始めた。演説をしていた兵士は去なりこう付け加える
「有益な情報をもたらした者には謝礼金を与える! なお直接捕らえた者には7000万ゴールドが支払われるが、相応の危険が伴う事を覚悟されたし!」
私は兵士から手配書をひったくり確認した。生死を問わずと書かれた手配者の似顔絵は・・・
「これは、勇者か?」
かつて魔王軍と幾多の激戦を繰り広げた勇者の姿が書かれていた
「ふふ…、事情は知らんが、良い退屈しのぎになりそうだ」
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