脱出作戦

「せ~の」

 合図によって俺たちはお手洗いから勢いよく飛び出した。

 荷物をすべて捨て身軽になったアビーは、俺が乗る車椅子を後ろか全力で押し、豪華に彩られた王宮の廊下を全く隠れることなく、豪快に走る。

 王宮の廊下は、思った以上に人が少ない。だが、廊下を走り続けていると、

「おい、そこの君たち止まりなさい」

 廊下の先に、きっちりとしたスーツを着た男が立ちはだかる。

 俺たちは、その男の前でピタッと止まった。

 そして、アビーが鬼気迫る顔で男に言った。

「たっ、大変なんです。お手洗いに爆弾が‼」

 俺はそれに続いた。

「そ、そうなんです。あそこのトイレに爆弾があったので……」

 スーツの男は、一瞬で顔がこわばる。

「おい、それは本当か⁉」

 俺は、元いたトイレを指差した。

「そうです。あっちのトイレです」

 男は、俺達が来た道を走っていた。

 男が去ると、アビーはいつもの調子に戻った。

「アサヒ演技ヘタす。第一、女子トイレにある爆弾どうして男のあなたが知っているのよ。変態ね。もうすこしアドリブ力を身に付けなさい」

「それを言うなら、アビーがうますぎるんだよ。演技の練習でもしてるの?」

「まぁね、お母様が男を操るなら、涙の一つぐらい流せるようにしておいた方が便利って教わったからね」

(おいおい、あんたの母さんはとんでもないぞ)

 作戦と言うのは、『僕たち子どもですからテロリストではないですよ』である。子供であることと爆弾の場所を素直に教えたことで、一般人が持つテロリストへの先入観からズレ、対象から自然とハズレる。俺がこの異世界に感じていた先入観と同じ感じだ。

「はぁ~、そんなことより、早くしてあげないと、あの人死んじゃうよ」

「それもそうね」

 アビーは、ニヤリと笑い左手に持ったボタンを押した。

 

 ドォーン


 それと同時に廊下に爆音と粉塵が舞う。

 肝を殴られたような衝撃に後ろを振り拭いた。

「おいおい、やりすぎだろ」

 もう、元いた場所は見る影もなく、砂ぼこりで何も見えない。

「むしろ、完璧よ。まぁ多少強かったかも」

 誇らしげな顔をするアビーに深く考えるのをやめた。

「早く逃げよ」

 どこか遠く方で聞こえるざわざわとした人の声。

 もう、ただ前を見ることしかしなかった。

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