三度目

 三日目。

 ここでの生活に居心地の良さを覚えてしまった。

 毎日、温かいご飯に清潔なベッド。正常に刻む時間の流れが数日前の事件が嘘のように感じてしまう。

 バレットの関係もなかなか良好である。基本的にバレットは笑顔で明るい性格だが、言葉数は多くない。それでも質問すれば答えが返ってきて、お願いすればすぐに願いを聞いてくれる。一日中一緒にいることに息苦しさがあったが、それが今では守られている感じがして、むしろホッとしている。

 と、言うことで……

(三度目の夜が来た‼)

 世の中には、三度目の正直という言葉がある。

「今度こそけるぞ、俺‼」

 まぁ、同じ行動を繰り返しても芸がないので新たな策を打ち出す。

 二回とも、お行儀よく部屋の扉から出て行ったのが間違いだった。今度は、窓からこの屋敷を抜け出す。

 車椅子の配慮からか、この部屋は屋敷の一階に面している。窓からだって簡単に外に出られる。

 車椅子で準備を整えた俺は、部屋の窓をロックしている鍵に手を伸ばす。

上がっている取っ手の部分を下に下げるだけだから、簡単にロックが外せ……外せ……

「ない‼」

 車椅子から手を伸ばしても、絶妙に触ることのできない高さ。

 グッと腕の筋肉に力を加え、骨を伸ばす。喉からうめき声が漏れ出る。

「あと少し……あと少し……はぁ~ダメだぁ~」

 肺から一度空気を抜き、筋肉を緩めた。

 そして、一度目よりも大きく空気を吸い込み、窓の鍵に手を伸ばす。

 先ほどより骨は伸び、指先が鍵に当たる。

 それでも、指が引っ掛からない。

「アサヒ様、私が……」

 すっと、しなやかな腕が横から伸びてきた。窓の鍵を下ろし施錠を解いた。

「これでよろしかったでしょうか」

「ありがとう……」

 ……

「わぁ‼……どうしてここに⁉」

 いつの間にかバレットが俺の横に立っていた。

 バレットは、いつも通りに華やかな表情を見せる。

「はい、アサヒ様。アサヒ様がお困りのようでしたのでお手伝いに来ました」

「……ホント、気が利きますね」

 優秀過ぎるメイドに涙を噛みしめた。

 『三度目の正直』、とは言うが、『二度あることは三度』あるだった。

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