二度目

 二日目。

 ここでの生活に少しだけ慣れてしまった。

 一日中、バレットと共にのんびりと屋敷の中で過ごす。特にやることがあるわけでもなく、何かをするわけでもなく、時間の流れをゆったりと感じる。

 そんな一日の中で何人かのバレットの仲間と解する場面があった。全員が全員、俺の姿を見かけるや、膝をついて頭を下げる。

 彼らにとっては普通なことかもしれないが、一般人の俺にはただただ困惑する。

 と、言うことで……

「逃げるか」

太陽が昇れば、太陽が沈む。

何事もなく、二日目の日常を送ると二度目の夜が訪れた。

「さすがにこの時間じゃ、バレットも寝ているだろう」

 昨日の反省を踏まえ睡魔と戦うこと幾ばく、世界が妖怪も寝静まるような夜のとばりへと染まった。

 例のごとく車いすに座る俺は、扉も前まで移動する。

 今頃思うのだが、この車いすが部屋に、ましてやベッドの横になければ、容易に脱走なんてできないのに……

(まぁ、仕事が楽なことは良いことだけど……)

 ドアノブを握り目が入るほどの隙間を作る。そこから廊下の様子を覗く。

 案の定、昨日と変わらない薄暗い廊下であった。

「よし、これなら大丈夫」

 そのとき、夜の暗闇にキランッと光る美しいガラス玉がこちらを覗いていた。

「アサヒ様。今日は朝が早いのですね」

「わぁ‼…バレットこそ、どうした?」

 ガラス玉の持ち主は、メイド服が良く似合う朝日のようなバレットであった。

 バレットは、扉を大きく開きその姿を見せた。

「はい、殿下。殿下が起きられるまで部屋で待機していようかと思いまして……」

 一片の曇りない表情でバレットは、笑った。

「こんな朝早くから?」

「はい、殿下」

 まだ、日が昇るのはずいぶん先だ。一体何を考えている?

「本音は?」

「アサヒ様、お顔を眺めていようかと……」

 光眩しく頬を染めた。

「ところで、殿下はどちらへ?」

 そのバレットの質問には困りながらもはっきりと答える。

「ちょっとお手洗いに……」


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