ご想像に……
「…………死にたい」
恥ずかしさで真っ赤になった顔を手で覆い隠した。
最悪だ。さっきとは別の意味で最悪だ。何が最悪だって、とにかく最悪だ。おそらくバレットも落ち込む俺を励ますつもりでやっただろう……そうあってほしい。
白い湯気が立ちあがる大浴場。どうして金持ちは無駄に広い浴室を作るのか。百人が同時に入っても余裕でゆったりと入っていられる湯船で一人お風呂を独占している。
先ほどの悩みが嘘のようにどこかに行った。それもそのはず、だって……口にしようとするだけでもうダメだ。思い出したくもない。
まぁ一応、賢い人なら想像してほしい。
湯船に浸かる時、人は裸になる。こんなの当たり前だ。当然今はタオル一枚で湯部に浸かってる。問題は次だ。俺は今、足が不自由だ。一人で歩くことも、ましてや、立つもこともできない。では、どうやって俺は湯船まで来たか?体を引きずってほふく前進?それとも、危機的状況で覚醒して魔法の力で?いやいやどれも違う。この二つであることを切実に願いたかったがダメだった。最悪だ、ホント最悪だ。
「殿下、湯加減はよろしいですか?」
「あぁ、ちょうどです」
大浴場でも湯船に浸かることなく、メイド服のまま俺の傍に立つバレットにため息交じりで返した。
人生最悪の羞恥プレイだよ‼せめて、もっとロマンチックなシュチエーションでお姫様抱っこを味わいたかったよ⁉はぁ~、男の俺が何を言っているのだか……
「殿下、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
相変わらず浮かない顔をする俺をバレットは心の底から心配してくれる。
「ねぇ、バレットさん。今更なのだけど、殿下って呼ぶのやめてくれないかな」
「何か至らぬ点でありましたか」
「いや、そんなことはないよ。ただ何と言うかこそばゆいんだよね。そう言う呼ばれ方されてなかったから」
別に嫌いな訳じゃない。世の中にはメイドに『ご主人様』と呼ばれたたいために、少しだけ割高な昼食代を払う人もいる。もちろん、俺だって一度は行ってみたいと思っていた。男として一つの憧れともいえる。ただ、サービスじゃない『殿下』と、呼ばれることはどうも背筋が落ち着かない。
「では、なんとお呼びしたらよろしいでしょうか?」
「そうだな。普通にアサヒでいいです」
「かしこまりました。それでしたら、私に対して畏まった話し方をされるのはやめて頂きたいとお願いします」
年上に対して敬語を使わないのは気が引けるがバレットが妥協してくれたのだ。こっちも妥協するか……。
「わかったよ。バレット」
ふぅ~と、背筋の力を抜きぐったりと湯船に浸る。
それにしても、足を思いっきり伸ばして湯船に浸かることはやっぱり気持ちいい。住んでいた家じゃ絶妙に足が伸ばせなかったからなぁ~、ちょっとだけ膝が曲がる。ちょっとの違いだが、心と体をリラックスする空間ではかなりの違いだ。
はぁ~、この世界に来て、いろいろなごたごたがあったが、心が休まるなぁ~…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
訳がない‼
どうもダメだ。一人湯船に浸かっていることはいいが、傍でメイド服を着たまま立っているバレットが気になって仕方がない。どうして、湯船でメイド服を着てるんだよ。熱くないの⁉湿度一〇〇%で室温だってそれなりに高いよ。長時間いたら脱水症で倒れだろ。
「ねぇ、バレット。一緒に入らない?」
「ですが、アサヒ様の前で肌を晒すのは……」
……何言ってんだよ、俺は‼まるでバレットの裸を見たい変態さんじゃないか‼
俺は、善意でバレットのことを気遣って言ったんだよ。
……いや、まぁちょっとぐらいほんの僅かどこか心の奥底に下心がなかったとは否定しないよ。だって、バレットを客観的に見ても普通に美人だし、身体だって厚手のメイド服でわかりにくいがかなりのスレンダーだ。アビーと違って出るところは出てるし、引っ込むところ引っ込んでる。実際銃を撃ってわかるが、細い腕で軽々と引き金を引けると言うことは、細身の中にもしっかりと筋肉がある証拠だ。
別の形で出会っていたら、コロッとやられてしまう。
結局、自分の変態さをさらけ出すことになったが、言っておくが善意の方が割合が高いからな。
「でも、十分綺麗な肌してると思うけど」
また、何言ってんだよ、俺は‼フォローを入れたつもりだが、これじゃどうしても裸が見たい変態じゃないか……あぁダメだ。どう言葉を見繕ってもスケベに聞こえてしまう。これは俺の心がいけないのかな……
「勿体ないお言葉ありがとうございます。アサヒ様ならお気になさらないと思いますが、過去に負った傷が残したままでして、あまりお見せできるものではないでご容赦ください」
バレットが俺の問いかけを断ったことのは、これが初めてだ。ここまで断るなら、本当に見せたくないのだろう……がっかりはしてないからな。
「こっちこそ変なこと言ってごめん」
「いえ、問題ありません。ご満足致されるまでおくつろぎください。その後はお背中を流させていただきます」
いや、勘弁してください。
思春期には嬉しいイベントであるはずなのだが、一人赤面しながらピリッとした空気で開催されても恥ずか死ぬだけである。
はぁ~、湯船には毎日浸かりたいものだが、これが続くと間違いなく身がもたないよ。
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