ちょっとだけ開く
「疲れた~」
太陽がどこか疲れ見せる時間帯。診察と質問攻めを乗り越えた俺は、バレットに連れられ、屋敷の広大な庭に出た。
「殿下、あの男ですね。殺しましょうか?」
だからなぜ、そうなる。それは診察中ずっと異世界の質問攻めで疲れたけど、殺すほどではない。せめて、一発殴るぐらいしてくれ。
「いや、別に少し慣れない環境に気疲れをしただけです」
まぁ、どちらかと言うとバレットの対応に気疲れしている面が大きいと思う。
「そうですか、寝室に戻って休まれますか?」
「いえ、もう少しだけ風にあたっていたいです」
「かしこまりました」
そして、庭を散策した。
庭には、噴水に、舗装された道、数種類の植物があたかも精密な工芸品のように一つの芸術を作り出してる。
こういうのんびりと車椅子に揺られながらいることも悪くいないが、この足がちゃんと治ることを願う。
診察結果から治療法が見つかるまでしばらく待ってほしいと言われた。もちろん待ちます、待ちますとも。そもそも軟禁状態な俺にはそれぐらいしか選択肢がない。
「これからどうなんだろうな」
心の声がわずかに漏れ出た。
車椅子を押すバレットは、俺からこぼれ出た言葉を掬い上げた。
「私としては、この国の王になっていただきたいという気持ちがございます」
やはりと言うべきか、別に驚きもしない。むしろ、必然だと思う。
彼らは、元々暗殺された前国王、俺の父親に忠誠を捧げていた人たちだ。そこに行方不明だった王子が見つかり、保護だけで留まるはずもない。できることなら、王子を国王に押し上げたいのだろう。むしろ、保護よりもそっちの方が本音かもしれない。
「国王ねぇ~、俺がなってもこの国を豊かにはできませんよ」
「そんなことありません。殿下なら立派な国王になれます」
全くなにを根拠にそんなことを……国を動かす知識なんか学んだこともない。
バレットから笑顔が消えた。
「それにあの男は、人殺しです」
「あの男?」
「はい、現国王のあの男は殿下のお父上様、国王陛下を暗殺した首謀者です」
首謀者?ってことは、前国王の暗殺を画策したってこと?
「国王陛下を殺して、あの男はのうのうと玉座に付くなんて許されることではありません」
初めて見たバレットの負の感情。うっすらとドロドロとしている。
「なるほど」
棚から牡丹餅が、実は謀略だとは、現国王はかなりの野心家だな。
自分の父が殺されたと聞いても、全く持って他人事のように感じた。
それもそのはず、血のつながりがあるといえ、顔も名前を知らない男を悲しむことは無理な話だ。
「それにしても話が出来過ぎですね」
「と、言いますと?」
「アビーが異世界転移魔術を完成させて、最初に呼び出したのがこの俺ですよ。話がうますぎると思いません」
全くよくできた物語だ。
アビーが異世界転移魔術の実験を行い、初めて呼び出したのが王子とされる俺である。
俺のいた世界ではいったい何十億の人々が暮らしている?それに転移魔術が如何に難しいことかも上空数千メートルをスカイダイビングして十分思い知っている。 偶然と偶然が重なり、まるで神が悪戯をしたかのような完璧さがある。
だが、バレットから帰ってきた言葉は意外なものだった。
「いいえ、殿下がこの世界に戻ってこられたことは、偶然ではありません」
「それどういうこと?」
「はい、アビゲイル・クロスフィールドが使用された異世界転移魔術は、元々我々が殿下を救出するために極秘でクロスフィールド家に依頼したものでございます。それもクロスフィールド家暗殺事件によって中止になりましたが、技術自体はアビゲイル・クロスフィールドが引き継いでおられました。ですから、私たちはアビゲイル・クロスフィールドの監視、研究動向の把握と支援を密かに行っていました」
バレットたちも居なくなった王子に対して手をこまねいていたわけではなかった。
と、言うことは、俺の手元にやってきた指輪は、偶然よりも必然的なことになる。
アビーはこれを知っていた?
いや、たぶん知らなかっただろう。バレットも極秘と言っていたし、そもそも、 国王暗殺事件は二十年前の話だから、アビーの生まれていない。
(はぁ~、一体何がどうなっているんだ?)
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