小さな幸せ
「随分、お時間がかかっていましたが、大丈夫でしたか?」
「まぁ、なんとか」
男のプライドはなんとか保てた。
俺は、バレットが用意した車椅子で運ばれ、屋敷の廊下を進んでいる。
屋敷の廊下は、壁や床を暖色系に統一され、左右を見ても突き当りが見えないほど広々としている。窓の外は、整えられた草花が立ち並んでいる。
廊下を進んでいると、食堂に訪れた。
食堂には縦長のテーブルが部屋の中央にドンッと置かれ、その上に白いテーブルクロスが敷かれている。
俺は一カ所だけナイフとフォークが並べられた上座に運ばれた。
「殿下、すぐに朝食をお持ちいたします。少々お待ちください」
バレットは部屋を退出した。
こんな豪華な食堂の上座に座らされると本当に自分が王子だと誤解してします。 バレットの言葉を信用していないわけではないが、まだ実感がわかない。
それもそうか、今まで平凡な生活を送っていて、異世界に来た途端に王子とはなんとも陳腐な話だ。
しばらくして、バレットがサービスワゴンを引いて戻ってきた。フワッと香る香ばしい匂いに胃がギュッと収縮する。
「こちらが今日の朝食になります」
並べられたのは、パンとベーコンの入ったスクランブルエッグにサラダ、小粒の 果物が数粒。朝が弱い俺にはちょうどいい量であった。
ごくりと唾を飲み込んだ。
「これ、食べていいですか」
まぁ、多分大丈夫だと思うけど、よその場所で黙って食べるわけにもいかない。
「はい、殿下。お召し上がりください」
俺は手の平を合わせた。
「いただきます」
まず、パンを手に取り一部をちぎって口に運んだ。
あぁ~、うまい。これまた久々に感じる食べ物が喉を取る感触。いつぶりなのだろかぁ……異世界に来てからというもののまともな料理を口にしていなかった。 たった一つのパンで幸福を享受できるとは存外俺は大変だったのだな。
夢中になって食べた。口を休めずに食べ進めた。
すると……
「なくなった」
それは食べればなくなるが、意外と物足りなかった。
チラッとバレットに視線を送る。
「殿下。おかわりもございますが、いかがなさいますか?」
「ください‼」
と、二人前分を完食し終え、欲を十分に満たしたところでバレットが皿を下げた。
「殿下、この後の予定なのですが、足の治療のため、検査を予定しおりますが、どうなされますか?」
それは願ったりない申し出だ。
「お願いします」
「はい、ご案内いたします」
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