妖怪人間ベリ

永風

妖怪人間の人間界生活

「はやく人間になりたーい!」

僕は強くそう思った。


 はじめ自分が妖怪でも人間でもないと聞いたときの衝撃は、父さんが隕石を拳で跳ね返したときの衝撃波に似たものがあった。

また、人間界に移住するけど結構妖怪寄りだから純人間との交流は難しいと言われた時の絶望は、母さんがゴキブリ退治にとうとう大斧を使い出した時の自分の部屋の安否に近かった。

あと、移住する時の僕の抵抗は、歴戦の勇者を一撃で屠った邪神龍の最期の抵抗であるかのようだったと僕の両親並びにその時犠牲になった方達は語る。


 僕は人間界からどうしたら妖怪界に戻れるのか試行錯誤を重ねた。


ある時は地面を掘ればいつかたどり着くかもと思い、ばれないよう深夜に5時間もかけスコップによる掘削作業を行ったのだが結果、

マントル付近で父さんお手製の超耐熱性スコップがぐにゃりとまがってきたため中止に追い込まれた。

また掘削した大穴はそれに気づいた母の魔の手により、灼熱の殺人落とし穴へと役割を変え今も我が家の庭でその口を開けている。


またある時は高くに昇って行ったら着くかもと思い、人間界で一番高く昇るロケットとやらに発射数秒前に飛び乗りジェット噴射口のパーツ上方に掴まっていた。

しかしなんの嫌がらせか下部分だけ外し、上のパーツだけで飛ぶという暴挙のせいで僕は地面に落とされてしまった。結構上がっていたのでちょっと擦りむきその日の風呂は痛かった。

僕はこの経験を活かして不眠不休の3日を経てもっと上の方に掴まればいいというアインシュタインもびっくりな解決策を思いつく、すると中々にこの作戦は功を奏しこのままいけるかともおもっていたがこの油断のせいで僕は大気圏突入時、「熱っ」とびっくりしてし手を離してしまい失敗に終わった。

この頃になるとNASAが直々に両親のもとにチクリに来て、これからは今回のようなロケット発射時に現実的ではない介入及び不適切な行為や下品な行為はやめろとの通達が下り、これを吞めない場合はアメリカが全力を以ってあなた達家族に戦争を始めるというので、これまた中止に追い込まれた。


そんなこんなで僕はいつの間にか小学校入学を向かえる歳になっていた。

僕たち妖怪兼人間は人間の1万倍の身体能力とそれに耐える身体を持ち、正直オリンピックなんて幼稚園のお遊戯以下の赤ん坊の地団太ぐらいのもんだ。だけど僕らは決して妖怪であることがばれてはいけない、何年も前のことだが正体がばれた同士がおりそのせいで今もなお人間はUFOなどの異世界侵略者に怯えている。つまり僕は普通の小1の人間を演じることになった、やれやれだぜ。


始めて人間界の小学校とやらに来てすぐ緊急事態が発生した、一目惚れだ。


人間なんかの女に興味があるはずない、そもそも妖怪というのは意外と皆美形である。それがいくら可愛いからってあり得ない、僕はデブ専でもブス専でもない。

まぁ名前ぐらい聞いてやってみいいか。・


「なぁ、君名前なんて言うの?一緒に行かないかい?」

怪しいナンパみたいになっちまったぜ。


「自己紹介なら自分からしたらどうなの」

おぉ、人間の小学生にしちゃあ上等じゃねーかここはちょいとおどろかせてやんよ。


「僕はベリyoukaiだ」

ふっ、つい本場のイントネーションがでちまったぜ。別に小学生程度にいったて大丈夫だろ。


「ふーん、妖怪ね。じゃあ証拠見せてよ」

ん?こいつ今ちょっと焦ったような顔しやがったな、しょーがねーなーここは大人である俺様がちょいとした技みしたんよ。


「ちょっとこっち来いよ」

なんかいかがわしい感じになったが仕方がない、校舎裏に連れ込むことにした。

にしてもこいつ度胸ありやがるそれか馬鹿か、普通なんかしら抵抗するだろ。


「じゃあやるぞ、100連自転」

3秒の内にその場で100回転するという浅田真央顔負けの妙技『100転自転』、

ちょいとやり過ぎちまったかな?さてさて、どんな顔してやがんのか拝んでやるよ。


「おい、貴様アホなのかそれとも知っていたのか?」

ん!?ちょ、怖い。え、なに実は極道の子だったりした?急にキャラ変わり過ぎだろやべー奴じゃねーか、校舎裏なんてとこに連れ込んじゃだめな人だよ。


「な、なんだてめー。やんのか?あぁ、やんのかよ?おいらは男女差別なんかしねーからな、手加減しねーぞ」

俺まで一人称『おいら』になってたよ、もう小学生じゃないよどっちも。


「吾輩は、妖怪界外交大臣兼、妖怪界特別監視隊特別顧問である。抜き打ちの監査の為人間界へときてやったのだが、どうやら来てよかったな。こんな身の程もわきまえない小僧を逮捕することになったのだからな」


俺は世界最速の土下座を敢行した。


 「でもなんでお偉いさんが人間界になんていらしゃったんで?」

もう妖怪数も減り、絶滅寸前の種族とはいえ1万年の歴史を持つ妖怪界の外交を取り仕切るトップが人間界なんて堕ちた場所にいるなんてなにかあったのだろうか。


 「あぁ、どうせ皆知ることになるだろうから言ってしまうとだな、妖怪界は来週には人間界の傘下になるよう人間界各国の大統領や国王に話を通した。これからは人間の世界だ」


 「え?今なんて?」

えーと、昨日見てたアルマゲドン的映画のせいで寝不足なのが駄目なんだな幻聴が聴こえるとは。確かに妖怪界はもう15人くらしかいなくてこの大臣も確かいとこだし、少子高齢化が進み内10人は年金生活という名の無駄飯食らいだし、妖怪星自体もう作物が育たないぐらい干からびて貯蓄も尽きそうだし……。うん、もう無理だね。妖怪界ホントに妖怪になってみんな死んで化けて出てくるよ。


 「これからは世界政府公認の妖怪としてみんなスローライフを送ることになる人間に成り損なった者としてな」




俺はその後なんの因果かドラマ出演を果たした、決めぜリフはこうだ


 「はやく人間になりたーい!」


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