残された僕の5年間
僕は彼女が眠ってからしばらくは放心状態だったが、これではダメだと思い、心を持ち直した。
彼女は卒業式に出れなかったが、彼女の席はあったのでそこに彼女の眠ったままの姿をそっと座らせた。
勿論先生たちにはこのことをある程度話し、許可を得てからやったことだ。
無事卒業し、僕は社会人になった。
父が働いている会社とはいえ、それなりにいい会社だ。
趣味やら何やらに費やす時間はなく、家に帰ってきたらクタクタという状態だった。
しかし家に帰れば彼女がいる、そう思うことで頑張れた。
何度か合コンに誘われたが全て断り、僕は仕事を終わらせたら真っ直ぐ家に帰った。
そして、早くも彼女が「5年経ったら起こして」と言ってからピッタリ5年後が経った。
仕事に勤しんでいる間、彼女はずっと眠ったままだった。
あぁ、僕の眠り姫よ、早く目を覚ましておくれ。
僕はこの日を5年間待ちわびたのだ、これで目が覚めなかったら夢菜を思い切りつねってやる。
そう思いながら、しかし胸のどこかで揺らぐ不安を抱えながら家の扉を開けた。
「ふあぁ……あ、文弥だ。おかえり~」
既に目を覚ましていた彼女は、ごく当たり前のように欠伸をし、あの日と変わらない、しかしあの日より格段に、格別に愛おしい、
僕は彼女めがけて、大きく1歩踏み出した。
そして、力の限り、思いのたけをぶつけるように抱きしめた。
彼女は無事、目を覚ましたのだ。
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