彼女の秘密は、ふたつじゃない

「あの子――夢菜はね、生まれてから今までずっと病気を患ってるの。

「心の底から愛している人の隣でしか眠れないっていう病気なんだけど……あぁ、それは知ってるのね。

「その病気、20歳になるまでにより悪化するって言われていたの。

「5年間、あるいはそれ以上――永遠に眠り続けるかもしれない、医師にはそう言われたの。

「……夢菜からこの話は聞いてないのね、あの子ったら、肝心なところは全部話してないのね。

「とにかく、夢菜は生まれてから幼稚園まで、ずっと眠れなかったの。

「このまま眠ることができない子になってしまったらどうしよう、私とお父さんは悩んでいたの。

「小学校に上がったら何か変わるかもしれないと思って、私たちは夢菜を小学校に入れたわ。

「そこで会ったのが貴方、文弥君よ。

「夢菜ってば、小学校の入学式が終わって早々にね、『はじめてちゃんと眠れたの!』って嬉しそうに言ってきて。

「入学式で椅子に座ってる間に眠っちゃってたのよ。

「それが本当に嬉しくてね、私たちは貴方ならもしかしたら夢菜を助けてくれるかもって、そう思ったの。

「……医師はこうも言ってたの。

「心の底から愛している人ならば、その病を治せるかもしれないって。

「だからなおさら、貴方に賭けたの。

「でも残念ね、夢菜は眠ってしまったわ。

「……あぁ違うのよ、貴方が夢菜を心の底から愛しているっていうことは知っているもの。

「だって、今夢菜のことが心配で病院まで走って来てくれたし、家にまで電話をかけてくれたんでしょう?

「ごめんなさいね、誤解させるようなことを言ってしまって。

「とにかくね、本番は夢菜が眠った後らしいのよ。

「夢菜が眠った後、残された者がどうするのか。

「それ次第で、夢菜の目が覚めるか決まるそうよ。

「……いい?脇目を振ってほかの女の子に目移りしちゃダメよ、そうしたらこの子の目は覚めないから。

「もしそんなことになったら……分かってるわよね?

「ま、元から心配なんてしてないから安心しなさいね。

「貴方ならきっと大丈夫、そう信じてるわ」

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