訪れた転機
転機は突然訪れた。
彼女はいつものように「5年経ったら起こして」と俺に頼んで寝た。
しかし、何故か彼女は一日中起きなかった。
彼女は疲れているのだろうと思い、僕はそのままにしておいた。
次の日も起きなかった。
さすがにこれはおかしいと思い、声をかけた。
いつものように返事が聞こえてくるだろう。
「ん~……なぁに、どうしたの?」
って、そう返ってくるだろう。
そう思っていた僕だったが、その考えは大きく覆されることとなった。
何度声をかけようと、何度揺さぶろうとも、何度耳元で叫ぼうとも、一向に起きる気配がないのだ。
これはおかしいと思い、俺は病院に連れていこうと思った。
彼女の家には「夢菜さんが起きる気配がないので」と電話で伝えたところ、彼女の母も病院に向かうと言われた。
これから連れていく病院の名前を伝え、僕は彼女を抱きかかえて走り出した。
最寄りの病院には、ここから走って5分程で着くのだ。
このアパートを借りることにした一番の要因は、彼女が病院の近くに住みたいと言っていたからだ。
今の今まで病院にお世話になることは無かったので、病院の近くに住むことに特に良いとも悪いとも思っていなかったのだが、この時初めて病院の近くに住んでいて良かったと思った。
彼女の母と病院の受付近くで合流し、僕は肩で息をし、しかしそれを止めようとする努力をしないまま、彼女を抱きかかえたまま待合室の椅子に腰掛ける。
「……遂に、ね」
彼女の母はボソリとなにか呟いていたが、「愛咲さーん」という看護師の声にその呟きはかき消された。
看護師に案内されるまま、僕たちは診療室に入った。
病的なほど真っ白な彼女を、これまた病的なほどに白いなベッドにそっと下ろし、医者から告げられる一言すら逃すまいと聞き耳を立てる。
聴診器やら何やらを彼女に当てたり何やらし、そして医師は顔を上げた。
その表情はどこか暗く、今言うことを伝えるべきか迷っているようだった。
しばらく視線を彷徨わせていた医師は口を開き、そして衝撃の一言を告げた。
「……いわゆる、植物人間と言いましょうか。愛咲さんは、仮死状態にあります」
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