第632話 ウォンの誤算……(26)

「いくぞ、アイカ」と。


 己の横、視線の真下で泣き崩れる此の国の女王アイカへと声をかけ。かけながら。彼女の華奢な腕、二の腕を掴んで引っ張り上げ──。泣き崩れている女王アイカを立たせ、この場から移動をしようと試みる。


「いや、離してよ。ウォン。私はここで。この場で。あのひとを待つの……。だからここから動かいない」と。


 女王アイカは、自身の二の腕を掴む、ウォンの腕を振り払いながら告げてくる。この場から動きたくはないのだと。自身の本当に主……。自分自身を捨てた夫、健太のことをこの場で永遠に待つのだと言い始める。


 でもウォンとしては、こんなことを言われても困る。と、いうか、今更女王アイカに自分の妻、妃になるのは嫌だ、ではないか?


 自分の心、想い。肢体(身体)は、以前から健太の物だ。お前、ウォンの物ではないと無言で告げられても彼は、ウォンは困るのだ。だって彼は、シルフィー率いるジャポネとの戦争、紛争、独立戦争に対して敗戦濃厚……。ろくな指揮をもできないままで、戦は終焉を迎えそうではある。そんな失態を犯してしまった自分自身ではあるのだが。ウォンはそれでも今は、この此の国の漢王だと思っているのだ。


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