第189話 少年はまた猜疑心ばかり募らせる(1)

「はぁ、はぁ」と。


 荒々しい息遣いで集落内を慌てて駆ける健太なのだ。


 それも自身の脳裏で、


(頼むからアイカさん……。ウォンさんの屋敷にいないでお願いだから……)


 彼は祈るように集落内を全速力で駆け抜けていくのだ。


 自身が今迄おこなっていた主夫業を途中で辞め、珍しく放置──。


 そう、家族が一人少ないランチを今日もしていた健太なのだが、食事が終われば彼は、いつものように率先して食事の片付け、掃除、洗い物を独りでおこなっていた。


 でも彼は、先程の洗濯で見つけた自身の妃の浮気の物的証拠を見つけ。していると悟った健太だから。一人寂しく仕事の作業をしていれば自然と浮気をいている二人が色欲的に抱き合い。交わる様子を勝手に、自身の意思とは無関係に妄想してしまう。


 まあ、それは生きていれば仕方がない事だ。知能があるべき者達は、いくら己の首を何度も振り。嫌な事を忘れようとしても、ちょっとしたきっかけだけあれば、いくらでも嫌な事は思い出してしまうから。


 いつも穏やか、優しい顔をしている健太の目尻だって急に吊り上がってしまう。


(くそ、くそ、僕はまたアイカあのひとに裏切られた。騙された。だから歯痒い。悔しい。くそ、くそ、殺してやりたい……)


 と健太は、女王アイカへの憎悪と恨みを募らせると。


 彼は居ても立っても居られなくなり。慌てて神殿を飛び出し。女王アイカが健太を騙し、蔑ろにして、お昼の情事をしている可能性があるウォンの屋敷へと駆け足で向かう。


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