第125話 健太とウォン(2)

「うぎゃぁあああっ! 痛ぇえええっ! 痛ぇよぉおおおっ!」


 健太からウォンは、自身の頭上と眉間に棍棒にて、無防備、避けることもしないで殴り打たれてしまった彼だから。


 まあ、この通り。


 予想通り。


 健太の策略、思惑通りだよ。


 彼は、ウォンは、この最強、強靭な男は、油断大敵、火の用心ではないが、ウルハを犯す、凌辱することに夢中になる。なりすぎて健太からの奇襲、不意打ちを頭上と眉間に棍棒の打撃、強打を食らい。


 この通り、予想通りの展開通りに自身の顔を両手、掌で覆い隠すように押さえながら地面にのたうち回る。回っている失態を犯してしまう。


 だから健太は棍棒を利き腕で握ったまま、オーク最強の漢戦士、グラディエーターが痛みに堪え兼ねることができずに絶叫を上げ、叫び、地面の上で転がり。のたうち回る姿を呆然と佇みながら見詰め。


「……快感……」、


「やった……」、


「やりきったよ、父さん……」、


「僕は自分の妻を暴漢から守りきったよ……」、


「だから父さんがいつかあの世にきたら僕のことを褒めてよ。健太はよくがんばった! 凄いぞ! 偉いぞ! と、褒めてね、父さん……」と。


 健太は独り言をボソボソと小声で呟けばニコリと満身の笑みを浮かべ。


「父さん、母さんサヨウナラ、先立つ不孝をゆるしてね」と。


 彼の、健太の別の世界……。に住み暮らす両親……。父と母に別れを告げれば。


 健太のしたこと、凄いこと、誰も彼が、ウォンが怖い。恐ろしい。畏怖してできなかったこと……。


 それがいくら卑怯で汚い。不意打ちであるにしても彼は、健太はこの集落の男王らしく大変に悲惨、惨い仕打ちに遭っているウルハ、自身の妻、妃を漢らしく守った。守護してみせたのだから。


 健太とウォン、アイカとウルハを円で取り囲むように見ていた集落の老若男女の民衆、民から。健太を、男王をワァ~! と褒め称える歓喜、歓声、声援が上がってもいいはずなのだが。


 この場は大変に静寂した空間へと陥り。民衆達は相変わらず自身の顔色を変えたまま呆然、唖然としながら沈黙を続けている。


 だから健太がこの静寂して静まり返っている空間を破壊、壊すように声を大にして叫ぶのだ。


「ウルハさん! 早く立ち上がって逃げてぇえええっ!」と。


「アイカさん、何をしているの⁉ 僕は早々にこの場から立ち去る。逃げるように告げたはずだよ!」と。


 健太がアイカへと珍しく、と言うか? 彼は多分初めてではなかろうか?


 自身の元妻? 今妻なのか? 


 今のこの殺伐とした現状だと二人。健太とアイカの関係はよくはわからないけれど。


 彼が、健太がアイカの婿養子になって初めての荒々しい声色──。彼女の夫らしく叫びながらアイカにこの場から直ぐに逃げる。立ち去るようにと告げるのだが。


 彼女、女王アイカは自身の美しい紅の瞳を濡らし大粒を多々流しながら自身の首を無言で振りながら。


『いや、いやよ。いやだ』の拒否のジェスチャーを健太に魅せるのみなのだ。


 それでも健太は自身の顔色変えながら。


「アイカさん僕のことはいいから。早く逃げてよ。おねがい。おねがいだよ。僕自身のウォンさんへの時間稼ぎはそんなにも長くできないから。早くこの場から逃げておねがいだぁあああっ!」


 健太は自身の喉が潰れるぐらい声を大にして叫び──。


 女王アイカを、自分の妻を暴漢男、覇王ウォンから守ろうとこの場から逃げる。逃走をするようにと急かすのだよ。


 そう、何故この場で勝利者、英雄と言っても過言ではない行為、おこないをした健太のことを褒め称え、歓喜、声援を送らないのかは、今彼が言った。叫んだ。咆哮をした通りだ。


 オーク最強の男ウォンのことを健太は完全に倒した。平伏させた訳ではない。一時的、ちょっとした時間稼ぎをしたに過ぎないのだよ。


 だから健太は泣きながら無言で『いやいや』と首を振る女王アイカへと更に自身の口を開き。


「アイカさん僕のことは放置していいから早く逃げてよ。でないと僕の今からの死が、が全部無駄になる。僕の犬死になるから早く逃げてよ。おねがいだ!」


 健太はアイカへと声を大にして嘆願をすれば、今度は裸体で上半身だけ起こし呆然としているウルハへと視線を変えると。


「ウルハさんも何をしているの、早くこの場から逃げておねがいだ。時期にこの騒ぎも鎮静されるからそれまではジャングルの奥へでも逃げておねがいだ!」


 健太はアイカに続いて自分の妻、妃であるウルハへも今直ぐこの場から逃げる。逃走を図るように急かすのだ。


 時期にこの場の騒動も必ず鎮静化されると健太は思っている。悟っている……。


 そう、覇王ウォンの覇業、クーデターも時間の経由と共に鎮静化されると健太は思い。悟っているからウルハに対して彼は自信を持って告げるのだよ。


 だからウルハは「うん」と頷くと慌てて立ち上がる。


 でっ、立ち上がれば彼女、ウルハは何故か急に自身の顔色を変え始めるのだよ、だけではなく。


「あんたぁ~。逃げてぇ~」と声を大にして叫ぶから。


「えっ!」と、健太の口から驚嘆が漏れるのだった。



 ◇◇◇

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