第124話 健太とウォン(1)

〈パチパチ〉


〈ペチペチ〉


 と鋼のような筋肉を持つ男ウォンの身体から大変に可愛らしい音が何度も鳴る。何度も響くのだ。


「ウォン! 僕の妻から離れろぉっ! 離れるんだぁっ!」の健太の甲高く、威勢のある。勢いある言葉と共に何度もね。


 だからその都度ウォンの口から。


「煩い、クソガキ! 俺から離れろぉっ! 近づくなぁっ!」


〈ドン!〉


「痛ぇっ!」と「痛い!」、「うぐっ、ツぅ」と健太の口から悲痛な声が多々漏れる。


「ほら、大人しくしろウルハ、もう諦めて足を開き俺の物、妻になるのだ。こんな弱々しいチビ。何の役にも立たないような情けないチビへの恋心など捨てて、この集落の王になる俺の物、所有物になるのだ、ウルハ。分かったな? だから暴れ抗う行為を辞めて大人しく足を開くんだ」

「嫌、嫌だよ。絶対に嫌だぁあああっ! うちはウォンー! お前なんか大っ嫌いだぁっ! 全体にお前のような男の妻、妃なんかにならない。ならないよ。絶対にー! あんたぁ~、あんたぁ~、うちの事を助けておくれよ。お願いだから」と。


 ウルハも相変わらずウォンの妻、妃になることをよしとせずに拒否、抵抗、抗い続けながら。


 彼女、ウルハ自身もわかっている。悟っている。


 自身の心に決めた男性ひとである健太が自身に覆いかぶさり。強引に自分のこの優艶な裸体を我が物しようとしている悪意ある男、覇王ウォンに勝利することなどの確立に過ぎないことはわかり悟っているが。


 それでもウルハは自身の喉が枯れるほどの絶叫、奇声を上げながら自身の夫健太に対して涙を魅せながら助けを嘆願、乞うのだよ。


 だから「うぅ痛い」、「痛、たたた……」と尻も落ちをついたり。一メートルぐらい後方へと弾き飛ばされ横たわり。その都度自身の顔を歪め悲痛な表情で唸り声を漏らす健太なのだが。


「うぅ、うううっ。くそぉっ」と、彼らしくない荒く汚い言葉、台詞を吐き呻りながら威勢よく立ち上がり。


「ウォンー! 僕の妻から離れろぉっ!」


 健太は声を大にして叫び──。


 自身の両目、瞳に映る大きな背──。


 それも健太の目、瞳には大変に大きく映るどころではない。


 とても強く強靭! 巨大にそびえ立ち見える強く、恐ろしい漢の背へと猪突猛進──。


 健太自身がその巨大な背に向けて、彼の産まれて初めての男同士の喧嘩、争い。肉弾戦……。



 自身の華奢な身体で体当たりを決行しても、その大きくそびえ立つ背中は山、マウンテンのようにピクリとも動かない。


 となれば?


 この後健太がウォンへの体当たりの後におこなっている彼の小さく華奢な手、掌の握り拳によるパンチやキュウリのように華奢、弱々しい足の裏を使用した蹴りを入れようが冒頭シンーンの通りだよ。


 健太の両目、瞳に映りそびえ立つ──山のようなせから。


〈ピチピチ〉


〈パチパチ〉


 と可愛く、弱々しい打撃音を出しながら健太がウォンの鋼のように固く、強靭な背へとロ○コンパンチと蹴鞠の連打──。


「ウォン! ウルハさんから離れろぉっ! 離れろよぉっ! 離れるんだぁっ!」と。


 誰が聞いても恐怖……。恐れ慄き、震え怯えることが全く不可能なとても甲高く、可愛らしい大きな声が叫ばれ、木霊を繰り返すのみ。


 まあ、のみだったのだが。


(もう、そろそろウォンさんも僕の繰り返しおこなった攻撃に対して油断をしたかな?)と。


 健太はウォンの大きくそびえ立つ背を見詰めながら思えばね。


 直ぐに彼はある物……。地面に落ちている物……。


 先ほどまでおこなわれていたこの小さな国、集落を二分する男女の争い……。


 そう、ウォーリアー、グラディエーター達VSアマゾネス達の喧嘩、争い、紛争で使用されていた木を加工しただけの粗末な武器である棍棒をチラリと見詰めれば。


 健太は慌て走り棍棒を掴み握れば。


 今までの健太のすることだけ無駄! 攻撃するだけ無駄! 攻撃を続ければ続けるほど健太の体力が消耗、失われていく……だけではないよね?


 健太の可愛らしい顔や華奢な身体を見て確認すればわかる通りだ。


 健太は自身の妻であるウルハを助ける。救うために誰が見て確認しても無謀、無理だ。命知らずのバカな男だと他人から罵られ、嘲笑いを受ける。


 健太の生まれ故郷のの一つである特攻! 突撃! を何度も繰り返すうちにウォンから振り向きざまに軽くあしらわれる度に彼の鋼や石のように固い手の裏、裏拳を多々顔や身体に打撃として食らっているから。


 健太の本当ならば可愛らしい顔がもう既にボコボコと腫れ上がり青や赤色……。彼の華奢な裸体も含めてあちらこちらと色が鮮やかに多々変わっている……。



 そう、女王アイカを含めた集落の大半のアマゾネス達……。


 最初は女王アイカも含めたアマゾネス達も健太立ち上がる。ついでの彼の持つ男の武器、剣、矛も大きく強くそびえ立たせ──いつもの弱々しい健太ではなく本物の男王らしい凛と威厳ある態度、容姿を周りに魅せる──。


「あなたぁ~」と、アイカの歓喜と共に。


「あんたぁ~」

「健ちゃん~」

「パパ~」

「お父ちゃん~」

「御方~」

「殿~」と。


 集落のアマゾネス達の大半はこのように歓喜! 声援! 鼓舞! 𠮟咤激励をしてこの場を大いに沸かせたのだが。


 今の女王アイカを含めたアマゾネス達の顔色、容姿、様子を見て確認すればわかる通りだよ。


 自身の美少年主、夫、殿、御方、男王さまが元の容姿がわからぬほど自身の顔の形を変形、化けているのだから。


 女王アイカのように涙だけ流しながら呆然、唖然、沈黙しながら健太の様子を窺う者や自身の華奢な両手で顔を覆い隠し、自身の主の悲痛、悲惨な様子を「うぅ、うううっ」と嗚咽を漏らしながら見ない者。俯く者、目を背ける者が多々出てしまうほど健太はウォンの油断を誘う。


 そう彼は、健太はウォンの油断、自身の背、後ろ、後方全体を無視、無防備にすることに成功した。


 だから健太は地面に落ちている棍棒を拾い握り、振り上げれば。


 またもや猪突猛進──!


『うぉおおおっ! ウォン! 殺してやるー!』と、彼は声を大にして叫ぶこともしないで、


「…………」と無言を決め込み──。


 そのまま駆け足で強く、巨大にそびえ立つマウンテンを揺らぎ、動かし。自身の大事な物、妻から離れさせるための奇策、奇襲に転じるのだよ。


(僕がこの棍棒で殴るのは、ウォンさんのあの固く大きな背じゃない。狙うは彼の頭、眉間を狙い。ウルハさんから離れさせるのだ)と。


 健太は自身の脳裏で呟き、固く決意をしながらウォンの背後へと迫り──自身の頭上から棍棒を振り落とし。


〈ガン!〉


 そのまま再度に素早く戻し彼の、健太の今使える渾身の力を振り絞り。自身の身体のバネと腰を使い再度棍棒を振ると──。


 遠心力も加えたサイドからの攻撃を自身の狙い通り覇王宣言をしたウォンの眉間へと力強く叩き込み、殴りつける。つけることに健太は成功したから。


 流石に覇王ウォンも刹那へと陥るのだった。



 ◇◇◇


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