第111話 健太とアイカ(5)

 女王アイカは自身が腕で引っ張り、奴隷の如く地面をズルズルと悲惨、惨めな様子で引きずられる元彼、夫……。最後の別れになるだろう健太に対して優しく見詰め、ゆるやか、穏やかな口調、物言いで話しかけ。情やお慈悲をかけると言うことをする訳でもなく。


 彼女はこの小さな国、集落の女王、酋長だから健太に対して冷たい目、冷淡な紅色の瞳で見詰め──何の感情も入っていない声色、物言いで淡々と彼に、健太に対しての自分自身の気持ち、感情が何故変わってしまったのかを説明しながら人気無い場所へと足早に歩き始める。


「……ウォンさんに僕のことで何かを言われ、吹き込まれたんだね。アイカさんのことを僕が集落内で力をつければ蔑ろにするとでも言われたのかな?」


「…………」


 健太が苦笑を浮かべながらアイカに問うのだが、彼女はこの通りの無言……。ウォンのことに関して何も口にだそうとはせずに沈黙を続ける。


 だから賢い彼はアイカの様子を凝視すれば自分の思っていること、疑惑が的を得たと悟るから。


「アイカさんはウォンさんの言葉、台詞、意見を鵜呑みにしたんだね。僕から一言もその件に関して確認をとることをする訳でもなく。ウォンさんの言葉をあっさりと信用したんだ。僕は貴方の夫だったはずなのに……って、あああ、そうか、そうだったよね。ウォンさんも僕と一緒でアイカさんの許彼氏、婚約者……。いや、旦那さまだったんだよね。僕自身もすっかり忘れていたと言うか? 集落の人達から聞くまでしらなかったよ。アイカさんとウォンさんがそんなにも深い仲だったことを……。だから僕はそれを聞いてショックだった……。もう誰も信用できないし。死にたいとその時に思ったし。死んで生まれ故郷に帰りたい。帰還をしたいと思ったんだ」


 健太は自身の言葉に反応はするが、回答をしないアイカに対してまた大粒の涙を流し。嘆くように告げる。


 でも彼の想いや悲しみはこれだけでは収まりがつかないよぅだから。


「アイカさん僕はね。だから小屋から出るのをやめたんだ。洗濯をするのもね。だって僕がもうアイカさんの下着や衣服の汚れ物を洗う必用などないと思ったかし。ウォンさんがすればいいと思ったから……。どうせ集落の男性達の僕への酷い虐め、虐待、凌辱行為って。アイカさんとウォンさんの二人が密談、相談をして僕をこの集落から追い出すために策を練り実行していたんだろう」と。



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