第105話 混乱(1)
「はぁ、はぁ、アイカ、見てくれこの様子を……」と。
大変に息遣い粗い様子、声色のウォンから告げられたアイカなのだが。彼の、ウォンの後方から彼の背を追いかけついてきたアイカの両目、紅の瞳に映る光景、様子を凝視すれば彼女の艶やかな唇が自然と開き。
「な、何なのこれは……」と自然と驚嘆が漏れる。
だって彼女、アイカの美しい紅の瞳の先では、大変に物々しく、殺伐、修羅化した状態、刹那な様子でグラディエーター達とアマゾネス達が怒声、罵声──悲痛な叫びと絶叫をあげながら混戦、乱戦、争い……。
この小さな国、集落内で男女が完全に二手に別れ内戦と言ってもよい状態で戦をしている。
だから女王アイカは驚嘆を漏らせばその後は少し開いた口が塞がらないと言った様子で呆然、唖然としながら自身の両目に映る物々しく、殺伐となっている状態を只見詰め続ける。
まあ、見詰め続けていると。
「あっ! いたよ。ここだ!」
「怠け者の役立たずの達に大きな顔をさせるんじゃないよ」
「ウルハに加勢をして私等の健ちゃんを救い出すよ!」と甲高い罵声と共に、次から次へとアマゾネス達が混乱、紛争の中に己の身を投じ、参戦していくのだ。
……だけではないね?
「おお、ここだ。ここでやっているぞ! いつも小生意気な女達をこの気に張り倒して服従……。本当は俺達漢戦士、オス達の方がメス達も優秀、武も力も優れていることを実証するぞぉっ、皆ぁあああっ!」と。
何処からともなくグラディエーターの罵声と𠮟咤激励が吐かれる。放たれれば。
「おおぉ、おおおっ!」
「やってやる!」
「やってやるぞぉっ!」
「今日から女達の尻に敷かれる生活ともおさらば!」
「今日から家の大黒柱は母ちゃんではなく、俺だからなぁっ!」
「家の若い男あさりばかりしている女房を力づくで、ぎゃふんと言わし。今日から俺だけに服従、尽くす女にしてやる!」
「ああ、俺の所の女房も殴り倒し。今日から俺だけの女にするんだ」と、中にはこの場で夫婦喧嘩……。
そう、今まで女尊男卑思想のために虐げられていた漢戦士、グラディエーター達も神殿近くの祭壇、祭事場近くで男女が二つにわかれて争い、喧嘩をしていると聞きつけ。常日頃から女達から受けている悪態行為の鬱憤、ストレスを発散する為と。
オーク種族の中で代々受け継がれ、守られてきた女尊男卑思想の廃止、排除、壊滅、崩壊……。
そう、女酋長、女王さま制を完全廃止して漢戦士、グラディエーター達の頂点に立つ男王を御旗に掲げ、男達による国の政、運営をしていくといった男尊女卑思想を男達は、この争いをきっかけに御旗として無意識……。
そう、悪しき策を計略し立てめぐらした男、ウォンの思惑通りにことが進み始めだした。
だからアマゾネス達だけが自分達のアイドル健太と、彼の窮地に駆けつけ、助けようと個々奮闘したウルハを助けるために次から次へと争い、喧嘩、内戦に身を投じて参戦をするのではなく。
漢戦士、グラディエーター達も常日頃から不満に思い。ストレスとして蓄積されていたアマゾネス達への不満を解消──力づくでアマゾネス達を本当の意味での、自分の物、女、女房にするために次から次へと駆けつけ、参戦──。
自分の気の多いい彼女、妻達と本気で殴り合いの争い。夫婦喧嘩をしている物も多々いる何とも言えない物々しく混乱している。殺伐した状態へと陥っている大変な光景が女王アイカの両目、紅の瞳に映っているから。
「ウ、ウォン、何が原因でこんな事、大変な事、事態に陥ったの?」
次から次へと駆けつけてきては罵声を吐き、放ち、咆哮をして、己の身を投じていくアマゾネス達やグラディエーター達の勇んだ声、絶叫が、自身の大きな笹耳に入り我に返ったアイカが自身の目の前で佇む男、ウォンの背に慌てて語りかけると。
「また、アイツ……。お前の所の亭主、男王が原因だよ……。アイツが、男王が余りに大袈裟に甲高い声を出し、泣き叫ぶから偶々通りかかったウルハが我慢……。耐え忍べなくなり。男王を救い出すのだと勇んで漢戦士達へと殴りかかり。そのまま乱闘騒ぎになってしまって、アイツ、ウルハの取り巻きの傾奇者娘や女達も争いに加わり。この集落内の男女に別れて争いを始めだしたから。俺の単独での意見、思いだけで勝手に行動する訳にはいかないから取り敢えずお前。酋長様からの意見と指示を仰ごうと思い。アイカお前を慌てて呼びに行った。そして現場へと連れてきたと言う訳なんだよ」と。
ウォンは自身の大変に緩んだ顔、ニヤケ顔をアイカに悟られないようにしながら後ろも振り返らずに、大変に困った声色を装いつつ彼女へと説明をするのだ。
「本当に男王にも困ったもんだな……。あいつ、あのチビがこの集落に着てから本当に碌な事がない……。あいつ、あのチビって本当に疫病神だな……。このままだと酋長としてのお前、アイカの立場も悪くはなるし。今後の政、政務に関しても実行するのに支障がでるんじゃないか、アイカ? 本当にあいつ、チビのことをこのまま好き勝手にのさぼらしていても大丈夫なのか?」と。
ウォンは自身の口の端を吊り上げ、アイカに健太への危機感と猜疑心を植え付け始めるのだよ。
「あいつ、あのチビをこの集落から追い出し。追放をした方がお前の為、アイカの為にも良いんじゃないか? このままだとウルハがあいつ、あのチビを旗頭、御旗にして女尊男卑思想から。あいつ、チビの産まれ故郷の世界、国のような男尊女卑思想へとこの集落は変えられてしまうようになるぞ。そうなれば俺達は、この地に国、集落を興した御先祖様達に申し訳がたたん」と。
健太も、ウルハ自身もそんな悪しきことは一切思案をしてはいない。しているのは『お前だ! ウォン!』と声を大にして叫びたい衝動に駆られそうにはなるのだが。
アイカ自身はそんなことは知らないし。わからない。まさか、自身の元彼、婚約者が健太への嫉妬に狂い、と言うよりも?
この地で最強、最高の漢戦士、グラディエーターだと自負しているウォンだから、最強の自分が男王になれないことに我慢ができない。耐え忍べなくなったから自ら邪な策、離反の計を持ち入り。
女王アイカと健太の仲を不仲にさせ離別、離婚をさせること。そのことはほとんどウォンの思惑通りにことが進み、後の仕上げは三つ……。それが成功、事成し遂げれば、ウォンがこの集落の男王になり。集落の実権を完全に掌握、握ることが可能になる。
だからウォンは自分が完全な男尊女卑思想の男王になる為にアイカの健太への危機感、猜疑心を煽り。植え付けながら。アイカがある言葉を呟く、漏らすのを持ち続ける。続けていると。
女王アイカはコクリと頷き、俯き、大粒の涙を最後に一滴だけ地面にポトンと落とせば。
「そうだな、あのひとは、この集落にはいらないひとのようだ」と、小声で呟いてしまう。
と、なれば?
ウォンは更に自身の口の端を吊り上げニヤリと歓喜──!
『やったぁあああっ! やったぁあああぞぉっ! これであのチビをこの手で殺す。殺傷できる。できるぞぉおおおっ! やったぁあああっ!』と歓喜の声を大にして叫びたい衝動に駆られる。
でも彼は、ウォンは、未だ自身の計略と思いは成就していない。できてはいないから平素を装いつつ。
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