第106話 混乱(2)

「おい、アイカ。ウルハが暴れ回っているのをとめなくてもいいのか?」


 自身の背の後ろ、後方で俯きながら。


(何で、何でこんな事になるの。なったの……。わらわはこの集落の酋長として夫健太の事を集落から永久追放するか、殺害をしなくてはいけい立場になってしまった。……一体どうしたら良いの。良いのだろうか……)と。


 健太の彼女、妻、妃として泣くことがもう自分できない。許されない。叶わなくなったと悟り。自身の心の中で悔やみながら涙を流し後悔をしているアイカへとウォンは自身の顔、頬、目尻、口の端を緩ませ垂らしながら嬉しそうに。それも女王アイカに絶対に悟られぬようにしながら問いかけてくる。


 でも当の本人である女王アイカは、自身の前に背を向けたままそびえたつ男が一番の悪党、大罪人、謀反の疑いがある男……。


 太古からオーク種族に伝わるとしている大罪人だとは知らない。気がついていない状態だから。


 悪しき男、本当、本物の男王になろうとしているウォンに対して彼女、女王アイカは自身の彼、夫のことでもうクヨクヨ悩み後悔……自戒をする行為をやめて顔を上げ、いつもの凛と勇んだ威厳のある酋長、女王さまへと早変わりして大変に愚かなことを彼女は口にだす。吐いてしまうのだよ。こんな感じでね。


「ウォン悪いが、この混乱、争いを止めるのに、わらわに力をかしてはくれまいか?」と。


 自身の目の先──離れた位置で哀れ、悲惨な容姿……全裸で嗚咽を漏らし横たわる彼女の大事だったはずの情けない彼、夫だったひ弱な健太ではなく。


 自身の目の前で大変に大きく凛々しい背、男らしい。強靭なグラディエーターの強くたくましい背を魅せるウォンを頼る大失態を犯してしまう愚妻へと走ってしまうのだ。


 だってこの大騒ぎ、混乱、争いの発端は健太のことを虐め、おもちゃにしていた漢戦士達に対して女傑、一騎当千の猛者であるウルハがとうとう我慢ができなくなり憤怒、憤慨──罵声を吐いた。放った。咆哮したことで争い。戦が始まったのだから。アイカが呆然、唖然としながら佇み、ウォンを邪な策を含んだ言葉、台詞に対して『うんうん』と頷きながら聞く耳、立てて、嗚咽を漏らす暇があれば。


 大変に情けなく、ひ弱な容姿……。弱者な漢……。奴隷、性玩具のような振る舞いをしている情けない主人、健太の許へと慌てて駆けつけ彼を救い。立て起こして、ウルハとアマゾネス達に主として、この争いを速やかにやめる。終わらすようにして欲しいと嘆願……。


 健太に男王としてこの集落の酋長、女王の自分……じゃないよね?


 健太の麗しく可愛い妻として嘆願をすればウルハやアマゾネス達は健太、主さまに逆らい楯突き謀反を起こす、決起することなどできないから渋々とやめて解散していくことは間違えない……どころか?


 この事件の本当の首謀者、先導者であるウォンの悪意ある策を賢い健太が見破ることも可能だったかもしれないのに、自身の本当の主を捨てた。見殺しに完全にすると血の涙を流し決意をした女王アイカは自身は悟ることができないから。


 この小さな国、集落が出来た。造られた。興されて初めての大惨事、事件がこの後集落のみなの前で起きてしまうのだった。



 ◇◇◇

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