第102話 ウルハ無双(2)

「あんたらぁっ! 家のひとに何をしているんだい!」


 とうとう我慢の限界……。堪忍袋の緒が切れてしまったウルハが憤怒、怒声を吐き、放ち、咆哮しながら漢戦士、グラディエーター達の輪へと猪突猛進──。


 と、なれば?


 健太を囲うように立ち並び、壁になる漢戦士、グラディエーター達は一斉に後ろ後方へと顔、目、瞳、身体の向きを変え──声が、足音が、ウルハが猪突猛進──。


 自分達へと素早く駆け寄り。詰め寄ってくる様子を「…………」と唖然、呆然、沈黙しながら佇み見詰めるのだよ。


 彼等、漢戦士達が想像、予想もつかない。してもいなかったこと、事態が急に起きた。起こるから彼等は泣きながら許しを請い。横たわる健太に対して荒々しく虐める行為を辞めてまでもウルハの猪突猛進──自分達への素早い詰め寄りに対して身構える。ファイティングポーズをとることもしないでただ呆然と佇みながら見詰め続けるから。


 自身の紅色の瞳をメラメラと燃やし、怒りをあらわにしているウルハの正面に佇み、壁となる者に向けて彼女は──。


〈ドン!〉だ。


 刹那──。


 地面から〈バン!〉と大変に鈍い音がする。


 そう、ウルハが自身の目の前にそびえ立ち、愛する彼の壁となる者の一人へと背に向けて蹴りを入れた。入れ込んだから。


 その男は勢いよく地面へと受け身をすることもなく無ガードで倒れ込んだから。


「うわぁっ。痛えぇ、痛えぇよぉっ! マジで痛ぇえええっ!」と。


 男はその場で横たわりながら自身の背を押さえ、のたうち回り。絶叫を上げる。上げ始めながら騒ぎ出すものだから。


 彼を、その男のことを呆然、沈黙しながら事の成り行きを見詰めていた漢戦士、グラディエーター達も『ハッ!』と我に返り。


「ウルハ!」

「何をしやがる!」

「貴様!」

「いい加減しろよ!」


 ウルハに怒声を吐き、放ち。咆哮をしながら慌てて身構える。ファイティングポーズをとるのだが。


「遅い!」


 ウルハがこう呟けば直ぐに自身の真横で身構えた男へと後ろ回し蹴り──。


 だからまた〈ドン!〉と物々しい音と。


「うっ、うぅ、うううっ」と呻り声が漏れ聞こえる。


 それでもヤンキー姉ちゃん達の頭、リーダーであるウルハ……。自身の彼氏、夫のことをおもちゃにしながら虐めた漢戦士達への怒り、憎しみ、恨みの三拍子は収まりつかないから。ウルハは更に獲物を求めて、自身の逆方向へと立つ者の顔の中心へと裏拳──カンガルーパンチを自身の状態を起こし、変える反動を利用しながら入れるものだから。


 ウルハのカンガルーパンチを食らった者は自身の折れた、潰れた鼻を両手で顔ごと覆い隠しながら。


「うぐっ、ぐぐっ。痛えぇっ」と、自身の身体を屈め、俯きながら唸り声を漏らすのだが。


 ウルハはその男、グラディエーターの髪を鷲掴み握ると、自分の方へと向き、ファイティングポーズを取り始めた男、連中達の方へとオーク種族のアマゾネスらしい男勝りな力、パワーを使いボロ雑巾や毛皮のように宙へと軽々と放り投げてしまう。


 だから自身の折れた鼻を庇うように両手、掌で覆い隠し、ガードしていた男もウルハに放り投げられたために、自身の顔を覆い隠しガードができなくなった状態、大の字でウルハの攻撃をファイティングポーズをとりながら身構えるグラディエーター達複数のところに勢いよく飛んでいくものだから。


〈ドン!〉

〈ガン!〉

〈ドガン!〉


 と、身体と身体が激しくぶつかり合う鈍い音が響けば。


〈バン!〉

〈バタン!〉

〈バサッ!〉


 と、複数のグラディエーター達が地面に倒れる鈍い音が辺り一面に響き渡るのだよ。


「うぅ、うううっ」と。


 グラディエーター達、複数の唸り声と共にね。


 だから残りの漢戦士、グラディエーター達も流石に呆然、唖然、沈黙……。各自各々が黙って指を咥えたままウルハの一騎当千劇、舞を見詰め、観戦する訳にはいかない。


「ウルハ、貴様……」と、グラディエーター達の中の一人が彼女を睨み呻るよぅに呟けば。


「ウルハ、いい加減しろよ」

「ウルハ、よくも俺達の仲間を……」

「ウルハ、貴様達の日ごろの行い。振る舞いの方は、女と思い大目にみてやり。目を瞑ってきたが。もうウルハ、貴様の事は許さんからな」と。


 他のグラディエーター達からも罵声、咆哮が吐かれ、放たれ続けられる。












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