第100話 猜疑心・孤立・引きこもり(3)
「エリエがいなくなったぞ」
「プラウムが小屋からでた」
「サラが飯を置いて神殿に帰ったぞ」
自身の部屋から出ない。行動をしない。引きこもり化している健太のことを陽時計の時間毎に気になり見にくる。様子を窺いにくる。
そして扉の向こうや室内から優しく……でも悲しく声をかけては労わる元妻、彼女だった女王アイカ以外の姉妹達が自身の肩を落とし、背から哀愁醸しだしながら帰宅の途につき、神殿に入るのを見て確認すればこんな言葉、台詞が健太の住み、暮らす貧相な小屋の少し離れた木々や家屋の陰から多々聞こえ始めると。
健太のことを必要以上に執着するグラディエーターの無言の顔、顎を使ったジェスチャー、合図により。健太が無気力で呆然、沈黙しながら横たわる小屋の質疎な扉を『ドンドン』と勢いよく、力強く叩きながら。
「おい、チビいるんだろう。早く出てこい!」
「健太、いるんだろう。今直ぐに身体を起こしてでてこい」
「俺達がまた遊んでやるから早くでてこい」
「健ちゃん~。お兄さん達とまた仲良く遊ぼう~」
「健太~。遊びましょう~」と。
扉の外から心の病にかかり無気力な健太を呼び、誘うのだよ。虐めと言う名の遊びや女の子のような華奢な肢体を持つ健太に対して性的暴力を加えるためにね。
だから今まで無気力、無心、無反応で横たわっていたはずの健太も自身の両目を大きく開け、驚愕しながら「ヒッ」と驚嘆を漏らせば、慌てて自身の身体を起こし、この何もない室内を見渡し、自身の身を潜める場所を咄嗟に探すのだが。みなも見て確認をすればわかる通りだ。
この質素な一間だけしかない小屋に、日本の押し入れや隠し扉、通路、そんなたいそうな物などある訳ないから健太ができることは部屋の隅へと慌てて移動──。
犬や猫科のハンター達から怯え、震え慄く猛禽類のように自身の両目から涙──歯をガタガタと音を出させながら身体を震わせ、身を潜めることしかできずに怯え。
(神さまおねがい助けてください。僕のこの身をお守りください。おねがいします。おねがいします神さま)と、健太は心の中で神頼みをしながら。自分の名を親しげに呼び……ではないか?
健太に対する憎悪を含みながら侮り、蔑み、嘲笑いながら小屋の扉を叩く漢戦士達が早く立ち去るように願う。乞うのだが。
彼等狩人、ハンター達は室内で閉じこもり怯えるウサギちゃんやネズミちゃんが小屋から出てくれないから致し方がないと思い。安易に立ち去るような良心など持ち合わせてはいない者達ばかりだから。
「おい、チビが部屋から自分で扉を開け出てこないから。部屋に入って強引に外へと連れだすぞ」と。
誰ともなくこんな台詞を漏らせば。
「うん」と、周りにいる者達頷き、納得をする。
だから『ガシャ、ガシャ』と扉を弄り。触る音がすれば。
『ギィー』と扉が開く音がすると同時に。
「おっ! いるじゃないか、チビは」
「なんだ、こいつ、震えながら隠れていたのか」
「お~い。うさぎちゃん、隠れたら駄目だぞ~。お兄さん達と今日も仲良く遊ぼうね~」
「いっ、ひひひっ」
「うわぁ~、今日もストレス発散ができるから愉快。愉快だなぁ~」
「俺さ、昨日の晩、家の母ちゃんとこのクソチビの事で口論、喧嘩をしたんだ。だからむしゃくしゃして仕方がないんだ」
「ああ、俺もこのチビが原因で喧嘩になった女と~」
「ああ、儂もだ。儂もだよぉ」と。
こんな言葉、台詞が小屋の玄関先からウォンの指示のもと、仲間の一人が先頭に漢戦士達多数を煽りながら悪態と共に吐かれる。放たれると。
「よーし、チビを強引に外へと連れ出すぞ」と言いながら。
健太の住む小屋へと、日本で言う不法侵入で罰せられることがないから平然とおこない。汚れた足で部屋へと踏み込み──。
自身の身体を小さく屈め、震え慄きながら怯えた涙目、瞳で見上げ様子を窺う健太の前に仁王立ちで立ち並び壁になれば。
誰ともなく健太へと腕を伸ばして──髪を鷲掴み。
そのまま彼の小さく華奢な身体を強引に引きずりながら小屋の外へと連れ出すから。
「いたい。 いたいよ。やめて、やめてぇえええっ! おねがいだから僕に酷いことをしないでぇえええっ! しないでおくれよぉおおおっ! おねがい。おながいします。今日は、今日はゆるしてください。おねがいしますー!」と。
健太の絶叫──。泣き叫ぶ声が辺り一面に響く──。
「だれかぁあああっ! だれかぁあああっ! たすけてぇえええっ! たすけてぇえええっ! おねがいだぁあああっ! アイカさんー! エリエさんー! プラウムさんー! サラさんー! シルフィー! ウルハさんー! みんなぁあああっ! おねがいだから僕を! 僕をたすけておねがいだよぉおおおっ!」と。
健太の絶叫、奇声交じりの妻達への助けを呼ぶ、嘆願、命乞いまで響き渡るから──。
神殿内にいるアイカやエリエ、プラウム、サラは自身の大きな笹耳を塞ぎながら悲痛、苦痛な顔をしながら聞こえないフリを装いつつ今日も耐え忍ぶのだった。
◇◇◇
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