第98話 猜疑心・孤立・引きこもり(1)

〈ドン! ドン!〉


「御方~、御方~、お~い。御方~」

「どう、エリエ姉、健ちゃんの反応は?」

「ん? ああ、サラか……。先程プラウムが怪我の治療をしたといっていたから多分屋敷の中にはいるとは思うのだが。御方から返事が、反応が無いから。多分自身の身体を休めて寝ているのかも知れない……」と。


 健太が、自身が犯した罪の責任を償う為にアイカを含めた姉妹とシルフィー、ウルハ達と離婚、離別をしてから一人で暮らす小さな屋敷の扉を自身の大事な彼のために食事を作り用意して、運び持ってきて、屋敷の扉を叩くエリエなのだが。


 彼女の愛する彼、健太は返事を全く返してこない。反応を示してくれないからオーク種族最強の戦士である気丈なエリエも流石に悲しい顔、今にも泣き出しそうな顔……。


 いつもの凛々しく、勇んだアマゾネスの彼女ではなく、一人の女性、妻、妃としての弱々しい様子を魅せながら言葉を漏らすから。


「そうなのかな?」と。


 エリエの妹であるサラも顔色を変え、悲しくと、心配を混ぜ合わせた憂い顔をしながら問いかける。


 でもサラの姉である気丈なはずのエリエが、「多分、多分な……」としか、言葉を返してくれないからサラも不安で仕方がなくなる。


「やっぱり、アイカ姉はだめだと言っていたけれど。漢戦士達あいつらが健ちゃんのことを虐めている姿を見かけたら直ぐに助け、救助する方がいいんじゃないかな? それが男達と揉めることになろうとも……でないと? このままだと本当に健ちゃんはあいつらに虐め殺されてしまうか? 心の病がもっと酷くなって自害して果てるようになるんじゃないのかな? エリエ姉?」と訊ねる。


 それでも彼女、気丈な姉は、今にも大粒の涙を落としそうな表情で、自身の首を振りながら。


「今回の件は長の意向だけではなくて、おばば達長老が関与し、長に穏便に事勧めるようにと告げ、反対をするシルフィーさんへも、集落内で二つに勢力が別れて争う。戦になる事は好ましくないから。御方を警護、救う事は禁止だと告げたみたいだから。私達が御方にしてやれる事は、毎日料理を運んでやるのと身体にできた痣や腫れ等の傷口を直し。御方の妻らしく、拠り所になれるように癒し、労り。尽くしてあげるぐらいの事しかできない……」と。


 エリエは悲痛、苦痛な表情を交互に変えながらサラに説明……。


 自分達健太の彼女……。いや、妃達は今の状態、状況では、主へのあの悲惨な虐め、虐待行為を見ないようにしながら素知らぬ振りをするしかない。耐え忍ぶしかないのだと話し、説明をしたところで少しばかり経緯の説明をおこなうために話しを巻き戻して、何故健太が屋敷の外にエリエとサラが食事を用意をし、彼に尽くそうと訪ねてきているのに自身の部屋に閉じこもり。


「いやだ。いやだ。もうこんな世界やこの集落にいるのなんて嫌だ。嫌だ……。今直ぐ日本、家に……。母さん、父さんの許に帰りたい。帰りたいよ。こんな生きていても苦しいだけの世界、集落になんかいたくはない。生き続けたくないよ。うぅ、うううっ。だから僕は死にたい。死にたいよ……。で、でも怖いし。痛いだろうから死ぬに。死ねないよ。僕は弱い者、情けない者、臆病者だから……」と。


 自身の屋敷の床の上で横たわりながら唸るように嗚咽も漏らし自戒、嘆く健太なのだが。何故こんなこと……。


 そう、アイカは元彼、婚約者のウォンに健太のことを頼むと泣きながら嘆願、乞うほど彼のことが好きなのに。健太の状況が以前よりもよくない状態……。彼が完全に心の病にまでかかり病んでいるのかと申せばね。


 以前の回想シーンを思い出してもらえればわかる通りで、ウォンがアイカに健太のことは自分に任せてくれ、悪いようにはしないからと微笑みながら告げてきてくれはしたのだが。


 アイカ自身もその時、あの時は、自身の大事な夫の悲惨、哀れ、惨い。酷い様子を凝視して心傷し、ウォンの提案を呑み、頷き、その場を後にしたのだが、それでもやはりアイカは可愛い健太が心配になり。やはり自身の庇護下に置き、愛する彼を自身の手で守りたいと思い。


 義母のシルフィーへと相談……。事情を聴いたシルフィーは顔色を変えながらアイカの提案である。自分や姉妹達で前男王へと嫉妬心から荒々しい所業、暴力、虐めを平然とおこなう漢戦士、グラディエーター達へと力づくで強引に鎮静──。リーダー格の男は誰なのかを問い。リーダー格の男がわかれば、その者を罰すると言った荒々しい行為を決行するのだと言った意見に賛成、同意を求めると。


 この小さな国、集落では、おばば達長老に次ぐ権威、影響力があるシルフィー自身もアイカの意見に賛成、賛同し。この集落の最大の権威と影響力があるおばば達長老、シャーマン達へと集落内で荒々しい武力行使、反乱分子を鎮圧する物々しい行為をする。おこなうことへの許可をとりにいけば。


「酋長、そんな大変に恐ろしく、物々しいことはしてはならぬ。ならぬぞ」

「酋長アイカ、そんな恐ろしい事はしてはならぬ。酋長アイカがする。おこなおうとしていることは、この集落内で意見、勢力が二つに分かれて内戦をするのと同じ事じゃ」

「うむ、その通りだ。女王アイカ……。それに女王アイカが剣や槍、拳を向けようとしている漢戦士達は皆他人ではないのだぞ。皆女王アイカと同じ祖先を持つ、血の繋がった者達ばかりなのだぞ。それでも女王アイカは自身の一族、身内の者を罰すると申すのか?」と。


 女王アイカとシルフィーの意見に対して反対の意思、意見……。一族。身内に対しての情のある意見を示してきた。


 しかしアイカとシルフィーの二人はおばば達長老の意見、意思には賛同できない。不満ばかり募るから。


「じゃ、おばば達は、わらわの夫に死ね! 他界しろと申しているのか⁉」と、憤怒しながら咆哮、問えば。


「そんな事は言ってはおらぬであろう酋長……」と、おばばさま達の一人が呟けば。


「シルフィー、お主も見えるであろう婿殿の星を……。こんな大変悲惨な事態に陥っても儂らの男王、婿殿の星は光り輝いている。だから大丈夫じゃ、婿殿は死ぬ事はまずあり得ない……。その事は星を見て占う事が出来るシルフィー、お主でも、愛する者の事を一度脳裏から外し、冷静に思案をすれば解る事じゃ」と。


 また違うおばばさまが今度はシルフィーへと優しく、ゆるりと諫めるように問いかけてきたのだ。


 だから星や易、だけではなく。貝、カード占いなどにも詳しいエルフのシルフィーは「はい。そうですね」と頷くしかなく、おばば達長老の意見、意思、意向に同意をする。


 でもアイカの自身のか弱い夫へと完全な虐め行為を嘲笑いしながらおこなう漢戦士達への怒りと憎しみは、安易に収まる訳ではなく。


 いくら自身と同じ祖、血を持つ者だとしても弱い者虐めを嬉しそう。歓喜するような輩達は一族の恥であり。末代まで笑われてしまうと思うから。


 彼女、アイカは、自身の夫を虐める者達を殺傷しても構わないと思う。


 でもそんな彼女の荒々しく高ぶった気持ちを悟るかのように。


「女王アイカ、お主が今後守らないといけない者は、人種の男王ではなく、我が一族の者、血だからなぁ。それを己が、主人が恋しいからと情に流され、判断を間違え一族の者達を殺める事はしてはいかん……。あくまでも女王アイカが守らないといけない者は男王健太ではなく。彼を使用して心の病や心の疲労を回復しようとしている漢戦士達なのだから。その事は忘れないように」と。


 女王アイカはおばば達長老から人種の健太のことを遠回しに見捨てるようにと二度に渡り釘を指されてしまうから。


「は、はい。分かりました」と、その場で涙を流しながら平服、了承するのだよ。致し方がなくねぇ。


 だから女王アイカは健太への情がこれ以上入らぬようにと。その日を栄に彼氏、元夫健太とは完全な離別……もう合わない。添い寝もしない。彼の小さく可愛い頭を膝枕する行為……。抱き枕にして窒息死させる行為も完全にやめたのだ。


 だから健太の傷の手当はプラウムやサラに任せ、食事はエリエに任せる行為へとでて、完全な離別を図るのだよ。


 ならば健太を異世界日本に返せばよいのだが、彼女の妻としての女心、未練が、中々踏ん切りをつけてはくれないし。エリエやプラウム、サラ……だけではないか?


 シルフィーやウルハ、その他の集落の主だったアマゾネス達……。


 ウルハ率いる強力な傾奇者、ヤンキー姉ちゃん達も安易に「うん」と頷いてくれる訳でもないから健太がいくら心の病にかかり引きこもりを状態へと堕ちようが故郷への帰還はできないでいるのと。その他にも弱々しい男健太を必要としている者達もいるからね。














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