第86話 孤立 (1)
「ふぅ、今日も頑張るか」と、声を漏らせば。立ち止まっていた自身の身体、足を動かし始め、歩行を続ける健太なのだが。以前のように彼に、少年健太へと。
「おはよう」
「男王もせいがでるね」
「男王は大変に小さな身体なのに、良く頑張る働き者だね」
「健ちゃんお仕事頑張って」
「はい、私の洗濯物も洗っておいて」と言った声、言葉、台詞が前男王だった健太へと、今の朝陽、日輪のような満身の笑みが彼へと注がれていたから。
「おはようございます」、
「うん」、
「そうかな?」、
「ありがとう。僕洗濯がんばるね」、
「えぇ~、なんで僕が貴女達の洗濯をしないといけないのですか? 僕これ以上汚れ物の量が多いと主夫業がいつまでたってもおわらないからいやです。したくないです」と。
自身の顔を引きつらせ、強張らせながら自身が両手で大事に抱きかかえる奥さま達の大事な宝物である汚れた衣服や下着が多々詰め込まれた籠の中に、健太の知らない女性達、自称妻達が次から次へと自身の衣服や下着、赤子のオムツなどを入れ込んでくるところ、場面なのだが。
みなも知っての通りで、彼は元妻、妃である女王アイカの嫉妬心から怒りを買い。この小さな国、集落の男王の称号を剝奪され身分は平民へと落とされ、一般人へと降格させられた男、少年……。
そう、この小さな国の中で罪を犯した犯罪者のレッテルを張られた健太だから。以前のように、日本人特有、気質の働き者である健太のことを誰も褒め、絶賛──。彼のことを優しく微笑みかけながら挨拶を交わす、絶賛、褒め称えてくれる者など誰もいなくなった。
……だけならばいいのだが?
健太が集落内を大きな籠を両手で抱え、川へと洗濯するために向かう姿を集落の者達が凝視すれば。
彼のことを冷やか、冷淡な目と中には憎悪を剝き出しにしながら見詰め続け。
「何であいつはまだこの集落にいるんだ?」
「早く酋長もあんな奴、この集落から追い出せば良いんだ」
「本当だよ。本当……。いつまで長はあの他種族のガキをこの集落に置いておくつもりなんだ?」
「……ん? そうだよな。あんなひ弱で軟弱な人種のチビなどこの集落には不要なのにアイカ様は何を考えているのだ?」
「そうそう、お前の言う通りだよ。あいつ、あのチビは、周りの集落との小競り合い。喧嘩があってもなんの役にもたたないしなぁ」
「いや、敵への盾ぐらいにはなれるのではないか?」
「いや、どうだろう? と、言うか。俺達の盾になるのも無理だろうあのひ弱、軟弱な肢体をみれば。敵に一発殴られたらボロの毛皮みたいにフワフワと直ぐに飛んでいくこと間違いないから無理だ」
「うん、確かにお前の言う通りだ」
「じゃ、何で俺達の酋長は、自身が別れた元夫のチビをこの集落にいつまでも追い出さずに置いておくのだ?」と。
籠を両手で抱え川へと向かう健太に向けて、こんな嘲笑い、蔑み、侮るような暴言が、この集落に一人しかいない孤独な人種の少年へとあの日、あの出来事……。
人種の健太が男王の称号を剝奪され、女王アイカの庇護下がなくなった日から毎日小さな声で、集落内のあちらこちらから呟き、囁かれているようでね。
その都度最後に囁かれている言葉は毎回決まっているようなのだ。
「う~ん、何でもウォンが言うには、チビは軟弱な異世界からきた人種の子供だから集落内から追い出すと直ぐに獣の餌になるか、食べるものが手に入らずに飢え死に、野垂れ死になってしまうから。それはいくら離別をしたからと言っても酋長が忍び難いと言っているらしい」と、誰ともなく呟き説明をすれば。
「俺がウォンから聞いた話だと女神シルフィーがチビをこの集落から追放する事をかたくなに反対、拒否をしていると聞いたぞ?」
「あっ、俺はウォンから酋長姉妹が断固反対していると聞いた」
「俺はウォンからウルハが毎日のように神殿へと訪れてアイカ様にチビを男王に今直ぐ戻すようにと荒々しく直訴していると聞いたがなぁ?」と。
そう、健太が男王の称号を剝奪された日から、ウォンは女王アイカ、元カノ、婚約者へと急接近──。
彼女のために尽力を尽くしたい。今度こそ忠義、忠誠を尽くしたい。だから自分のことを元男王健太ではなく、元彼氏、婚約者だった自分のことを頼って欲しいと。プライドが大変に高い男が女王アイカのためならばこの身が燃え尽き、屍になろうとも構わないと膝を立て、深々と頭を下げながら願いでてきたのだ。
だから女王アイカは機嫌よく了承、承認をしたのだ。
と、なれば?
女王アイカの方針は女尊男卑思想らしいアマゾネス達を重要視する方向から漢戦士達、グラディエーター達を重要視する方向へと移り変わってきているみたいだから。
彼女、女王アイカは義母のシルフィーや従姉のウルハと、自身の妹達の意見よりもウォンの意見を聞き入れ重要視するようになりつつあるのだよ。
と言うことは?
アマゾネス達の象徴、アイドルにするために他世界から召喚した象牙色の珍しい色を持つ少年……。
アマゾネス達にとってはこの世の、世界の宝、宝玉だと言っても過言ではない健太のことが女王アイカとウォンの二人は邪魔で仕方がなくなってくるから。
健太のことをどのようにして闇の中へと消し去り。亡き者にするかと言った課題になるのだが、と言いたいところではあるのだが。
健太が両手で抱える元妻プラウムの真心がこもった籠の中身を見て確認すればわかる通りだ。
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