第14話 女々しく、弱々しい男王の誕生(3)

 最後は末の妹である四女のサラが、自身の瞳に露を沢山溜め流しながら姉の女王アイカへと嘆願、自分の主、夫になる健太のことを殺さないで欲しい。許して欲しい。お願いしますと乞う。


「うぅ、うううっ。アイカ姉お願い。お願いだから。健ちゃんを殺さないで」と、健太の喉元を、唸り声をあげながら相変わらず、自身の犬歯を当て、力強く噛みついている。姉のアイカの背からサラは抱きつき健太のことを噛み殺さないで欲しいと願い。乞い続けるから。


〈ドン〉と、〈バサッ〉


 その場、床に、何かが落ちた。落下した音が響き、聞こえれば。


「うぅっ、うううっ。痛い、痛いよ。父さん、母さん。痛い、痛いよ。助けて、助けてよ」と、自身の首から床が血の絨毯で真っ赤になる。染まるほど血を垂らし、流し、己の実を痙攣、引き攣らせ──。力無く横たわる虫の息に近い危険な状態の彼、健太の涙を流しながらの遠くにいる両親への助けを乞う。願う呟きが、彼の裸体と共に床に転がる姿がある。


 ついでに健太はこんな唸り声、台詞も漏らしながら。


「うぅ、うううっ。帰りたい。帰りたいよ。日本に。僕の産まれ育った街に……。おねがい。おねがいします。僕を自分の産まれ育った故郷に返してください。おねがいします……」


 自身の意識が薄れるほど首から血を流す健太は、薄れゆく意識の中で、遠く離れた。別れ離れになった。それも健太の意思とは無関係……。彼は自身の意思、想いで、この異世界、世界へと強制的に召喚、連行をされ、女王アイカの婿、夫。男王へとなった訳だから。


 彼の、健太の意識が薄れ、なくなる寸前は、彼の妻だと申してきた恐ろしいオークの女性、女王アイカの姿ではなく。一人息子の自分のことを花よ、蝶よと大事に育み育ててくれた。健太の父と母の顔、面影だったみたいだね。



 ◇◇◇

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