第17話 ウソと本物の私の夏休み

 気持ちをいっそ全部ぶつけられたらスッキリするのに、ウソの私のことをばれるわけにはいかないから、それも叶わない。

「なんでもないよ」

「またそれか?」

「ショウに話すつもりはないもん。私達は友達超えてじゃん……私がちゃんと話せるまでちょっと時間ちょうだいよ。全部言える日が来たらちゃんというよ。そんときはさ、『お前なぁ~』って言いながらいつもみたいにちゃんと最後まで怒らずに聞いてね。約束」

 いつもの笑顔を浮かべてバシンと鞄で軽く殴って、ゆるまった私の手首をつかんでいた手を振り払って私は走り出した。

「おいっ……」



 走って走って走って、息は上がって、心臓の音がうるさく聞こえて、横腹だって痛いし、酸素が足りなくて苦しくて苦しくてしょうがない。

 酸素を求めて私の口は、大きく息を吸い込む。

 走るのをやめたら楽になるけど、止まってしまったら、苦しいとか止まりたい以外の今は考えたくないことを沢山考えてしまいそうで止まれなかった。




 本物の私じゃ、本物のあなたは絶対に手に入らないってことを一番私がわかってるのに、私ときたら



――あなたのことばかり。



 ショウはそれ以上特に何も詮索してこなかった。

 それを望んだのくせに、通知の来ないスマホをみて、それがさびしいと言う矛盾を私は夏コミにぶつけることにした。


 リサ姉からは夏休み入ったらもう衣装の修正もあるし、一回仮で着てもらわないといけないと言われた。

 リサ姉もなんか私の様子がおかしいのに気がついたのに、そこは大人、ショウとの仲をいつもは茶化してしつこいくらいにきいてくるのに何も言わない。



 いつもだったら、入り浸りでゲーム5本はクリアするぞと二人で燃えた夏休み。

 今年は違う。

 ユウでは会ってもユウキでは会うつもりはなかった。



 まぁ、今からだと閉め切り間に合わないし、もともと本は出すつもりはないというか二重生活のせいで金のなかった本を出すことはできなかったんだけど。

 その分ツイッターにイラストと漫画をUPじゃいとオタ活ではじけていた。



 相変わらずショウから連絡のこないユウキのスマホ。

 こまめに連絡がくるユウのスマホ。

 本当の顔がユウだったら、幼馴染でも別の道があったのかなとほんのり思ったりするけど、なるべくそう言うことを考えそうになったらオタ活い勤しむ本物の私。



 それにしても、軽い気持ちでレイヤーデビューすることになったけれど採寸を舐めていた。

 リサ姉の様子はいつもと違った。そこは有名レイヤー妥協など一切なかった。

 ちょっと修正して、衣装をきて、ちょっと修正してまた合わせてみるにすっかり疲れた私は帰り道にコンビニによって甘いものでも買っちゃおう今日は買っちゃおうとコンビニを目指していた。



 こういうときに限って、家が近所だとコンビニに立ち寄るだけで会いたくない幼馴染とエンカウントしてしまう悲しい定め。

 姿を発見した私はコンビニに入ることなくUターンしたんだけど、見逃してくれるはずもない。



「ユウキ、ポテチもちょうどあるし一狩りいこうぜ?」

 そう話しかけられたのだ。

 会うつもりがなくても、会ってしまう。ご近所だから活動範囲がガッツリかぶってる……

 いつまでも不自然に避けるのは不可能か……ショウにしたらかなりほっといてくれたほうだし。今無視したら家に突撃してきそうだもん……出るまでコースで。


「いいよ。私のタル爆弾が火を吹くぜ」

「お前、毎回タル気に入って準備してくるけど、タルの設置だけビックリするくらい下手だよな。罠はそんなことないのに」

「うるさい、そっちだって捕獲の罠を適当な場所に毎回置くからショウが設置したのにはちっとも引っ掛からないじゃない」

「回復薬節約して笛ばっかり吹いてるやつに言われたくない」

「何よ、その笛のおかげで死なずに済んだことが何回あったと思うの?」

 この空気は空気でやっぱり心地よい。



 私は久々に、ショウの家にやってきた。

 ここに来るのは、ユウで訪問した水着事件依頼。

 ショウは私の訪問には何も思ってないけれど、私はものすごい気恥ずかしい気持ちとなっていた。



 この部屋であんな下着同然のカッコでいたとか信じられない。

 愛用してるから、夏場はあって当然なんだけど、あのかぶったタオルケットも当然ベッドの上に適当にたたまれているし。

 ベッドの隅に追いやられた私のクッションを抱えてちょっと悶えてしまう。

 よく、この部屋であんなことしたのに寝てるなショウと思ってしまう。


「何やってんの?」

 クッションをぎゅーっとしていたらショウがいつの間にかジュースをもってきたようでそう聞かれてしまう。

 思いっきり不審な場面を見られた。

「いや、久しぶりの私のクッションちゃんの感触を確かめてた」

 適当な言いわけをする。

「それ、気にいってるよな。もう結構ボロボロになってきてるのにお前が使うから捨てれないんだよ」

 手早くテーブルにジュースを置きながら、そう言われた。

「勝手に使ってはいないでしょうね」

「使ってないけど、もともと俺が買ったクッションだったんだけど」

「ここまで使い倒したら完全に所有権は私にあるも同然」

「なんだよその意味不明な言いわけ。それよりやるぞ」


 電源を入れて、ジュースを一口飲む。

 よし、せっかく口頭でごちゃごちゃ言えるんだから、ちょっと難しいやつの討伐にするかな。

 うーん。


「この前の公園でのこと、ごめん」

 ポソリとショウはそう言ったのだ。

 おそらく私が怒ってる理由を考えていたのだと思う、その結果が怒って帰ったあの一件につながったんだと思う。

「怒ってないよ。ただ、イケメンの彼氏作ってやるからみてろよ」

「へーへー、できたらせいぜい見せびらかしにきてくださいよ~」

「信じてないわね」

 私には最悪リサ姉という最終兵器がいるんだぞ。

 人々が振りかえるような外見なんだぞ。

 最終兵器として男ではなく、男装の麗人を選んでしまう。



 本物の私が呼べるイケメンがリサ姉しかいないのがちょっとむなしい。




 

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