第16話 本物の私は本物の君が眩しい
あの日以来、私はショウを避けている。
幸い学校はもうすぐ夏休みにはいる。後数日さえ乗り切ってしまえば当分はうまいこと会わずにすむ。
そんな時だった、ポンっと通知音がなった。
『俺のこと避けてない?』
もう少しで会わずにすむと考えいた私の心を見透かすようなタイミングで指摘されてしまった。
『避けてないよ』
私は、嘘をついた。
もうね、全力で鉢合わせしないように避けている。
こちとら、好きでずっと見てきたし一日の行動パターンも知ってる。だから、こういうときショウがどうするかお見通しだ。
別にストーカーってわけじゃない、教科書借りたりするのに便利だから組みが違うけど時間割知ってるだけだし……といいわけを一応しておく。
後はもう気合いと勘で避ける。
特に休み時間教室にいるのは駄目。
休み時間の度に私は教室を後にして、違うクラスの友達のもとにいったり、意味もなく女子トイレにこもってみたりしていた。
休み時間ギリギリに教室に戻ると、教室に読み通りショウが来ていて、どこいってたんだよ? と言わんばかりにこっちを見てきたけど気にしない。
友達がからかうように、ショウが教室に来ていたことを教えてくれるけれど、「すれ違いだったな、何か用があればまた来るでしょ」などと流す。
そんなこんなで徹底的に頑張って、明日から夏休みって時にその日はやってきた。
最後のベルがなる。先生の話も一区切りついたら、すぐに鞄を持って、友達に予定があると言って私は教室から飛び出した。
走れ、走れ、走れ。
今日さえ乗り切れば私の勝ち、ラインはなぁなぁに、家では居留守しておけばいいんだから。
まだ、帰る人があまりいない校内を急いで駆ける。
忘れ物があったとしても、夏休み中は部活や受験勉強をする生徒のために学校はあいてるしまた取りにくればいい。
内履きから外履きに履き替えて、よし、全力ダッシュ! と走りだそうとした私の手首を掴まれて前につんのめる。
後ろは見れない。
声もかけられてない、姿も見ていない。
でも、手を掴まれただけで誰かわかっちゃうんだよなぁ、悲しいけれど。
振り向かないと変だよねって思った私はちょっと不自然な間をおいて振り返った。
「もう、急いでる時に手首掴んだから腕が痛いじゃん」
いつも通りいつも通りにと意識してそう言ってヘラっと笑った。
「悪い」
痛いということに反応してショウの手が離れた。
「ごめん、私急いでるのよ。用だったら後でラインしてよ」
ショウが続きを話すよりも先にそう言って話を打ち切り私は走り出す。
再び伸びてきた手が私の手首を掴んだ。
今度は引っ張られることなく、そのまま私に逃げられないように手首を握られた状態で、ショウが隣を並走してきた。
「俺、何かした?」
「何もしてないよ、今日はちょっと急いでるの」
「はぁ……お前さ。嘘つくときそうやって、ぼろが出ないようにシャットアウトするだろ」
私の癖をズバリ指摘されて押し黙ってしまった。幼馴染で相手のことを知っているのは私だけじゃなかった。
走りつかれた私はゆっくりと歩き出す。
私が逃げないようにショウが私の手首をいまだにギュッと握っている、こっちの気も知らないでと心の中で悪態をついた。
「なぁ、気にするようなことを俺がしたなら言ってくれないとわかんないし。わからないと謝れないんだけど」
喧嘩のときは私がショウを好きでも謝れなくて、こんなふうにショウのほうから歩み寄ってくれて、ショウが先に謝って終わることが多かったよなと振り返る。
私はショウが好きだ。
だから、一線を越えてしまった今、好きだからこそ欲が出てきてしまった。
ショウを手に入れたのは、ウソで塗り固められた偽物の私で……ショウは本物の私が手に入れられる男じゃない。
それでも、好きな人がこちらを向いてくれる、こんな気持ちを知ってしまったままじゃ、もうこれ以上ずっと友達枠になんか収まっていられない。
全部全部ひとりじめしたい。
他の人に好きって言わないでほしい、他の人を見つめないでほしい、他の人のモノにならないでほしい。
本物の君が私は眩しい、本物の君の隣にいるためには私はウソで塗り固めないといけない。
認めるのが苦しくて、つらい。
だって、ずっとずっとわき目も振らずショウのことだけが好きだったんだもん。
他の人なんて目に入らなかった。
他の人を好きになれたらどれだけ楽になるだろうってずっと思ってた。
同じ時間を傍で過ごしてきたけど、私はショウにとって話の合う幼馴染の親友みたいなもん。
どれだけ楽しい時間を一緒に過ごしても、ばかやっても、ずっと傍にいても……
ショウが好きになったのは、いつも傍にいた私じゃなかった。
私がどれほどこちらを向いて欲しいと願ってもかなわなかったくせに、偽物の私はほんの少しだけショウと関わっただけなのに……
ショウはあっさりとポッでもいいところの偽物私を好きになって、私が一番欲しかった言葉も繋ぎたかった手も抱きしめたかった身体も。
一生できないだろうと思っていたキスですらあっさりと全部全部、好きになった女の子にあげてしまったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます