第10話 嘘をつくには金がかかる

 なんとか、前回のデート終わりに連絡先をごまかした私は携帯を2台持ちすることになった。両方を格安スマホにかえて、それで料金なんとかならないか……である。

 嘘をつき続けるには金がかかるのである。



 次のデートでようやく連絡先を教えると、ショウはホッとしてたようだった。

 やっぱり連絡先知らない彼女とか不安だよな~。



 そして、私はデートをして気がついたことがある。

 公園に何をするわけでもなくいる高校生のカップル。今までごめん、なんであんなところに長時間いるんだろう楽しいの? とか思っててすいませんでした。

 楽しいですと訂正を一つ。



 といっても、清く正しいお付き合いでせいぜい手を握る程度だったけれど、楽しい。

 隣にいるのが好きな人というだけで、公園ってこんなに楽しくなっちゃうの状態に驚いた。


 リサ姉にこのことを報告したところ、若いなぁ、青いな~、甘酸っぱいなと返ってきた。


 といっても、いつまでも金がかからないからと公園でだけデートするわけにもいかないことを相談したら、図書館でも行って勉強教えてもらいなよって言われた。

 さすが人生の先輩である。




 そんなこんなで、テスト期間に入る前のほうが空いてるよねってことでショウと図書館デートすることになった。


 学校最寄りの図書館はさけてあえてひと駅隣の図書館にした。

 私はバス代節約のため、歩いてきましたとも。

 ただでさえ変身セットを預けるのにお金がかかるのだから無駄なお金は使えない。

 日陰のベンチに座って待つ。今日は私が先についたみたい。



 この待ち合わせというのがくすぐったい。

 ショウとは家がご近所なこともあり、たいてい遅いほうを呼びに行くスタイルだったから、わざわざ時間を決めて外で待ち合わせするというのが、こんなにも姿が見えるのはいつだろうとワクワクするだなんて知らなかった。


 そんなことを考えていると、ショウはコンビニの袋を提げて今日は自転車で現れた。

「ごめん、遅れた」

 コンビニの袋からはおやつがみえる。ここ売店入ってないからわざわざ寄って買ってきたんだ。といっても飲食禁止だからこっそり食べるか、ロビーで食べるかになるけど。



 学校と反対側の市の図書館が大規模リニューアルして大きな学習室ができた影響もあってかこちらの図書館は空いてた。

 並び席を確保して、いざスタートである。というか、勉強でこんなにワクワクドキドキしたことなんて人生で一回もなかった。

 勉強って言うのは、やらなければ、もうショウとの接点がきれるぞって心に言い聞かせて気張るようなものだったからなぁ。



 ショウの成績はいい。モンハンのプレイ時間は私より長いし、ジャンプばっかり読んでる姿はよく見たけれど。

 正直なところ、自主学習してるショウの姿を初めてみた。

 まぁ、普段は私が家に来る=遊びだから勉強はしないんだろうけれど。


 それにしても、今回も並ぶと近い。集中できないというか、好きな人が隣で勉強してるってすごいと勉強に関係ないことばかりがよぎる。

 いやいや、こんなことをしている場合ではない。

 私はショウと同じ学校にはいるために、そこそこ勉強して入学したわけで……ある程度勉強しておかないといけない。



 映画館は薄暗かった、でも此処は明るい。横をみたら真剣な顔が入ってくるという暴力に私は堪えていた。

 よし、数学の問題1問解くごとに1回チラ見してもいいことにしようと自分ルールを決めてみる。

 チラ見OK作戦のおかげで、次のテスト後に提出になるだろう課題はどんどん進んでいく。後はこれを別のノートに面倒だけどうつせばOKだ。


 それにしても、特に数学苦手なんだよな……つまってしまった。これが解けないとチラ見できない。

 詰まっていると、ショウが覗き込んできた。



 んんんん! この距離は近い近いよ。

 ショウは問題をチラッと見ると私のノートにサクサクと解き方を書いていく。これがわかりやすい。

 自主学習する姿見たことなかったけど、頭もいいのかチキショー。

 

 ショウの書いた数式の下に『ありがとう』と書くと『どういたしまして』と書かれた。

 自分で言うのもあれだけど、甘酸っぱい甘酸っぱいよ。


 そんなこんなで、1時間ほどがんばって、ロビーで休憩した。コンビニまでは少し距離があるから、おやつ買ってきてもらえて助かった。

 半分払うと言ったけれど受け取ってもらえず。




 休憩をはさんで、またも勉強である。

 難しい問題は、ショウが教えてくれたため、後半は結構ショウの字が書かれたノートになった。絶対ノート見返すたびに思い出しそうだこれ。

 教えてもらうのが恥ずかしい、こちらのノートに記入するためにショウの身体がこっちにくるのがたまらなく恥ずかしい私は、集中しろ、集中だ! と問題にかつてないほど真剣な姿勢で私が取り組んだ。

 教えてほしいけれど、これ以上は心臓が持たないと必死に取り組んだおかげで問題につまることなく解いていく。なんだ、私やればできるじゃん。



 問題につまったわけではないけれどショウのシャープペンがノートに伸びてくる。

『問題ちゃんと解けてるよ?』とショウをみる。

 ノートのほうを見ながら書いてるのかと思ったら、ショウは明後日のほうを向いていた。

『え?』

 その状態でノートに書かれた文字をみて私は死ぬかと思った。



『スキ』



 こっちを見てない状態でかいたからちょっといびつなそれは、見れば見るほど恥ずかしい。

 ショウのほうはこのような大胆な行動とは裏腹にあさっての方向をずっと見てるから、きっとショウも恥ずかしいはず。


 私はショウのノートに手を伸ばして、端に小さく書く。


『すき』



 自分でやり返したけれど限界を迎えた私は。

「ちょっと、トイレ」

 といって、席を外した。




 私は頭を押さえて、声を押し殺しトイレで悶えていた。女子トイレって一つずつ個室になってて本当によかった。というか世の中のカップルはあんなことしてるの? だから勉強も楽しいの? どうなの?

 やっと落ちついてショウのところに戻ったけれど、もう勉強を再開できる状況ではなかった私達は勉強道具開きっぱなしのまま、どちらからともなく手を繋いでいたらデート終わってた!




 家に帰ってノートを開くと、ショウの文字が沢山かいてあるし。

 何よりかにより、形に残ってるいびつな『スキ』の破壊力に死にそうになったし、多分ページ開くたびに当分死にそうになることだろう。

 けれど、まだ延長戦があるとはこの時の私は考えてもみなかった。



 ショウから電話がユウキのほうにかかってきたのだ。

 彼女とデートしたから始まった電話。かけてきたほうが、言いたいことを一方的に話すことはいつものことなんだけど。

 今日のデートのショウサイドの話で私は頭が爆発してしまうのではないかと思った。



 並んで勉強したこと。ちらちら隣見ちゃって全然集中できなかったこと、解けないところを教えてあげれたこと。

 途中から彼女が順調に問題説いてて出番がなくなっちゃったこと。

 出番がないのがつまんなくて悪戯したこと。



「そしたら!!」

「はいはい、そしたら」

「……なんでもない。おやすみ!」

 突如電話は切られた。



 またも私はベッドの上を転がりまわる夜となった。

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