第9話 映画館と君の手
館内が暗くなると、映画の予告が始まった。
あー、気まずかった。隣にいるのに、隣をまともに見れないんだもん。
何を話せばいいかちっとも浮かばなくて、ここに座ってからの会話は、先ほどのブランケットのやりとりくらいだったから、暗くなったことでホッとした。
さて、せ……せっかく隣にいるんだもん。
私とデートしているショウの顔を少しくらい目に焼きつけようと思ったわけです。
もう、スクリーンのほうを向いて映画の予告に集中しているころよねっと、チラリッと横を向いた。
バッチリ目があって、思わずヤバイとすぐにスクリーンに視線を映す。
いやいや、こっち見てるってのはなしでしょ。なんでこっち見ていたの?
絶対目があった、うわーーぁぁぁあ、振り向く前まで時間を戻してくれ。
恥ずかしい、絶対ちらみしていたのバレたよ。
しかも私何も言わず目をそらしちゃったから用もないのにショウのほうみたのバレバレだよチキショー。
スクリーンを見つめながら、心の中の小さな私はドンドコのたうちまわっていた。
映画の予告は淡々と流れ続ける。これから映画が始まるのだから何も話さなくて当然なのだろうけれど。
ショウはどうしてるか気になってしまって、今度こそばれないようにと、もう一度そっと横を見た。
ショウは顔を両手で覆っていた。
いや、それじゃスクリーン全く見えないよねと思わず冷静に心の中でツッコミをいれてしまう。
映画の予告は終わり、本編が始まろうとしてるのに、まだ顔を両手で覆っているし。
『何やってんのもう!』とついつい、いつもの私が顔をのぞかせた。
ショウの袖をツンツンと引っ張った。顔を覆っていた両手が離れて、視線がこちらを向く。
『映画始まるぞ!』声を出すと周りの迷惑になるので、パクパクと映画始まるぞ! と言いながらスクリーンを私は指さした。
私の意図に気がついたようでショウの視線がスクリーンに向いたのを確認し、私もスクリーンを見つめた。
ふぅ、高いお金を払っているのに損をするところだった。危ない危ない。
映画は恋愛物だった。
正直いつもアクション、ホラー、ファンタジーの3種類しか見ないショウが今話題のだからと、私がコレを見たいと言った恋愛モノに歩み寄ったことに震えるほど驚いている。
私は、こういうの本当はみたかったからそれでいいのだけど、上に上げた3種類のジャンルしか見ないショウははたして楽しめるのかである。
話題作って書いてあったけど、どうかなっと思っていたけれど、大きなスクリーンでみたこともあって、私はすぐに映画の世界観に引き込まれた。
映画に夢中になった私はついいつもの癖で、今日は買っていないポップコーンをスクリーンから視線をそらさずに手だけでさぐる。
いつもだったら二人の間の肘おきについてるカップ置き場にポップコーンがあるはずだった。でも、今日は買わなかったポップコーン。
私の動作はポップコーンがない今はただの意味のない行動のはずで、あっ、ポップコーンないんだったと終わるはずだった。
指先に触れた感触で私は何に触れたのかすぐに理解した。
『あっ』と思わず声が出るかと思った。
ポップコーンを探してさまよう私の手は肘置きを使っていたショウの手に触れてしまった。
やってしまった、今日ポップコーン買ってないんだったとか、二人の間の肘置き使ってたんだと慌てて引っ込めようとした手は捕まれた。
引っ込めようとしたところを握られたから変な感じになるけれどそれはすぐに握り直されて手を繋ぐ形にかわった。
じんわりと伝わる自分のものじゃない体温を感じて恥ずかしくなる。
こんなこと考えてなかった。横が見れない。
私、今変な顔してないよね。もしかしてさっきのって私がショウと手を繋ぎたいって思われたかな。
どうしよう、緊張してきたら私の手汗がヤバイ。
じっくり握ってみると、ショウの手大きいし、少し骨ばってるし。
何よりかにより、わっわっわ……私の手を軽く握ってきている。
こんな時どうしたらいいの?
漫画とかでは、手を繋いだ『トゥィンク』見たいな描写はあっても、繋いでる間どうしたらいいかとか載ってなかった。
映画の内容後半、よくわかんなかった。ほんと、ただスクリーンを見つめてただけで内容がちっとも頭に入ってこず。
どうしよう手汗がとか、ショウの手ヤバイとかそんなことを考えてたら映画はいつの間にか終わってた。
とうとう、私は最後までどんな顔でショウが私と手を繋いでるかを確認することはできなかった。
パッと館内に明かりがついて映画の終わりだとわかる。パラパラと人が立ち上がり、出口へと向かう。
私たちはほとんどの人が退出するのをみてから、ようやく二人でゆっくりと立ち上がった。握られていた手がゆっくりと離れる。
ジュースは途中から飲んでなかったのを思い出して急いで飲んでゴミ箱に捨てる。
化粧直しも兼ねて私はトイレへと向かった。
化粧は崩れていない。ただ、先ほどまで起こっていたことを思い出すと顔が赤くなった。
デートってすごいかもしれない。思わず先ほどまで軽く握られていた自分の手をしみじみと見つめてしまった。
そして、いつもユウキと歩いているときは、こっちの歩幅とか気にせずズンズンと進む癖に、今日はいつもよりゆっくりと歩いてくれてるのがわかって歯がゆい。
すっかりと忘れてて遅くなった昼食をマックでとった。店内は昼食時ではないのに混んでいたから手早く食べて場所を移ることにした。
といっても、我々お金が沢山あるわけではないから。
当てもなくぶらぶらと街を歩いて、先ほどの映画の話をしたり、たわいのない話をした
「次も会ってくれますか?」
急に敬語になったショウ。
駄目、ここは断るところってわかっていたのに……私が彼に言った答えは。
「はい」
肯定だった。
自分の心にウソはつけなかった。
次はどこで会おうって話になって。次は公園とかお金かからないところに行こうと私から打診した。この調子でお金使ってたら破産である。
そして、恐れていたことをショウは言った。連絡先を交換したいと……
何よりかにより問題は連絡先だ。私はスマホを1台しかもってないのだから。
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