第6話 私と君の大きな誤解
さっき私から何か用でもあるのかってニュアンスで聞いたよね。
なんで何も言わないの? どうして私の手首握ったままなの?
嫌な汗が背中を流れる。
なぜ、すぐに言葉を発しないの?
発するのをためらってしまうようなことを私に言おうとしている?
相手を知るためにじーっと見つめると、ショウが珍しく緊張してるのがわかる。
私は私で、ためらうだなんてやっぱりお前の正体ばれてるって指摘するつもりなのか。ウッグずれてるって指摘するの失礼とか悩んでる? ってことが頭をぐるぐるとしていた。
「あ、の。今度、遊びに行きませんか?」
「え?」
何を言われるのかと思っていたショウの口からでたのは、まさかの遊びの誘いだった。
なぜ、今それを私に言う?
いや、待って、友達のユウキをショウが遊びに誘うことは別に普通。ということはやっぱり正体ばれてる?
いやいや、ユウキだと知った上で遊びに誘うなら『○日に○○集合な!』でいいはず。
ユウキには敬語で改まって言う言葉じゃない。
ということは、ショウは私を誰か知らないで遊びに誘っている? なんで? 何のために? わからない。
ショウの目的がわからなくて怪訝な顔で見つめてしまう。
はっ!? もしかしてリア充ってこうやって友達増やすの?
「あっ、やっぱり今のなしで」
そういって、ショウは手をぶんぶんと振る。
両手を顔の前でぶんぶんとするのは恥ずかしい時をごまかしてる時。
そう思ってショウの顔を見つめれば、耳は赤く私と視線を合わさない私の知らない彼がいた。
どうしていいのかわからなくて、私はショウを見つめた。
どうしたらいいの? 何を考えてるの? いつもはよくわかる彼のことがちっともわからない。
一向に次の言葉を話さないショウ。
具合でも悪いの? 心配になった私は顔がばれるってことも忘れて、近づき彼の顔を下から見上げた。
「大丈夫?」
後で、リサ姉から言われて気付いたのだが私はこの時、ショウにクリティカルヒットを繰り出したのだ。心配そうに身長の高いショウを見上げた私は、いわゆる上目遣いというやつを発動したのだ。
「す……」
「す?」
『す』ってなんだ? 何が言いたいのかわからないぞまどろっこしい、いつも通りさっさと言いたいことがあれば言えばいいのに。
「す…きです……」
隙 つけ入る機会がある様
鋤 農機具の一つ
空き 減る、暇になる
おかしい、意味がちっともわからないは……あっ、『すき』ではなく『すうき』だとすれば……
数奇 運命のめぐりあわせが悪いこと。
あっ、これだわ。
私が何度も見つかってしまう不運なめぐり合わせであることと辻妻が合う。
「す…う…き……?」
なるほど、お前の正体はお見通しだ、でもこんな人の多いところでハッキリと問い詰めるのもあれだから遠まわしに言っておくけどって感じか!
言いたいことはこれですねと、ゆっくりと繰り返す。
私がそう復唱すると、ショウは何度もうなずいた。
『お前数奇な運命過ぎんだろうワロタ』ということですね。そうですね。
ばれてないと思って取り繕ったことが恥ずかしい、あの時の私を誰か殺してくれ。
「あの突然言った俺が悪いんだけど。そのできれば返事をもらえたらって……」
あぁ、遊びに行こうって言ってたっけ。黙っててやるから奢れよってことね。
今度こそおっしゃっている意味がワカリマス、しっかりワカリマシタ。
「えっと、そのわかりました。あの、とりあえずどこに行く?」
私の返答で、ガチガチに緊張していただろうショウの顔が一気に華やいだのだ。パッと表情が変わるとはまさにこのことだろう。脅し大成功ってか、チキショー。
「本当に? 本当に?」
そういって突然私の手を両手で握ってくる。力加減がいつもより強くて痛い。
「あの、ちょっとさすがに痛い。手を緩めて」
「あーっ! ごめん。俺力とか考えてなくて痛かったよね。ごめん」
慌てて手を離すと、ちょっと私の手をギュッとした程度なのに、やけにショウはおろおろとしてごめんを繰り返す。脅した癖にそういうところが彼らしくて思わずクスっと笑ってしまう。
そんな私をショウがみて、何があったのかまたも耳まで真っ赤にして、今度はそーっと私の手にもう一度触れた。
「あーーどうしよう。やっぱり言ってよかった。あーーーほんとどうしよう」
先ほどからやけにあーーーが多いぞ。あーーー脅してよかったってか……
「すごく嬉しい」
真っ赤な顔のまま、彼はそういったのだ。
脅すの成功して死ぬほど嬉しそうだなこれ。
そんなに私の弱みがほしかったということなのだろうか。それとも、これだけ喜んじゃうくらい面倒なことがあって押しつけたかったのか。
こんな状況なのに、やけにそっと私の手に触れる手が懐かしい。
そういえば手つないだのなんていつぶりだろう。
最後は小学校低学年くらいのときだっけ、あのときは私とおんなじ柔らかい手だったのに、いつのまにかこんなに大きくなってるし、ごつごつしてるし。
握力なんかも私よりも強いんだなとぼんやりと思う。
スリっとその手に触れてみる。ずっと近くにいたけど、この手って遠かったな。 脅され奴隷へという思ってもみなかった友情の終わりだ。
それに彼のほうから、私の手をなでにきているのだからこれくらいはいいだろう。
手一つでこんだけ愛しいって思う自分重……ってことで我を取り戻した私はハッとして顔を上げる。無意識にいつの間にか友人の手をなでまわしてたよ。
完全にお前どうした案件。
止められなかったけど、気持ち悪いって思われてたらどうしよう。
「あのさ、モウイイデスカ?」
片言でそう言われる。
「ごめんなさい」
「いや、別に手くらい。どれだけでも触っていただいてもいいっていうか。むしろもっと触ってほしいというか」
しどろもどろという感じでショウが私にそう告げる。
久しく繋いでいなかったけれど、手くらいなら友達だしつないでもいいということだろうか?
「えっと、とりあえず名前教えてください」
ん?
名前? 何言ってんだコイツ……
徒歩30秒に住んでるもうすぐ出会ってから16年になる、幼馴染の私の名前がわからな………………
此処に来て浮かぶ、私の詐欺メイクもしかしてばれてないんじゃない説。
「ユウ……」
ユウキと名乗ろうとして途中でとめてみる。
「ユウちゃんでいいかな? 嫌だったら呼び方変えます。俺はショウ。あの呼び捨てでもあだ名でも好きに呼んで」
ちょっと待て。
ちょっと待ってくれ。
今起こっている出来事がうまく整理できない。
私の脳のキャパをオーバーしてる、上手く整理できない!!!!!!
「ショウ……君」
思わずつけちゃった君。彼の出方を伺う。
耳まで真っ赤にした状態で、彼はとても幸せそうに微笑んで
「はい」
と返事をした。
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