第5話 ウソの私はウソのイケメンに縋る

 最寄りで適当に着替えて、今日もコインロッカーに荷物を預ける。

 さてと、リサ姉はどこかな? っていうのはすぐに分かった。

 160cm後半の彼女は今日はさらに上げ底の靴を履いてきてくれて、170cmを超えている。

 ジェンダー系男子のような中性的なイケメンが駅でたたずんでいました。


 ウッソーウッソーウッソー!!! まさか男装してイケメンになった状態でくると思ってませんでした思ってませんでした大事なことなので2回言う。

 私に気がつくと、リサ姉がひらひらと手を振る。

「ユウキ、こっち」

「ちょっ、えっ、ちょっ」

「日本語に一つもなってないんだけど」

 クスっとリサ姉は笑うけれど。

 いつもと違い、高めのテノールのイケボまで装備していたのだコイツは。

「おま、その声どこから出した」と思わずつっこみを入れてしまう。



「慰めたげるって約束したじゃん。行こう」

 そういってニカっと笑うのだ。ホント中身も女にしておくの惜しいし、彼氏さんとラブラブな理由がわかるわコレ、一人で二度おいしい……いやカップル間でBLの話は駄目だったんだっけ?



 予約の時間あるから、急げとせかされて、ふざけて手をつながれて思わず赤面したりしながら到着である。

 せめて推しきますようにとドリンクと軽食を頼む。


 ドリンクと軽食が早速運ばれてきたのを私は写真を撮る。

「じゃぁ、失恋記念にカンパーイ」

「リサ姉さすがに、怒りますよそれは」

「冗談だって冗談」

 そういってペロっと舌を出すところも決まっている。

 絶対カメラうけを考えたアングル対策してるよこれ。周りもちょっとザワっとしてるしわかっててやってらっしゃる。

「ホント、どの角度からみてもイケメンですね。決まってるところがもう、イラっとするけど一瞬でそのイラっとを吹き飛ばすくらいなのが怖い」

「知ってる、けど嬉しい」

 いつもの女性の声に戻る。





 楽しい時間はあっという間だった、突然言ったこともあって、リサ姉はこの後予定ありだそうだ。

「私のためにした男装で他の女のところに行ちゃヤダ」

 そう駄々をこねてみた。

「この恰好で行くわけないじゃん途中で着替える。少し楽になった? でもなんか新しい進展があったらお姉さんに……いやお兄さんかに報告すること」

 という捨て台詞を残し、譲ってくれるお下がりの服を残して名残惜しくも去って行かれた。

 ほんと着なくなった服のお下がりの助かる、服にかける分のお金減るし、リサ姉のおしゃれで厳選されてるからそのままきればいいし、身長が違うからいただけるものに限りがあるのは残念だけど本当に助かる。

 私が働いたら恩返ししよう、絵もこれがお礼になるならば沢山送りつけておこう。




 時間もまだ早いし、もう少しうろうろするかな。お金ないからうろうろするだけなんだけどさ。

 そろそろ自分でもちゃんと服選べるようにならないとなぁ、とか考えながらショップを回る。リサ姉にいつまでも甘えているわけにはいかないのだ。



 喉乾いたけど、自動販売機のやつで我慢だわ。2週連続で大散財だもの。

 ベンチに座って一息つく、あっスマホチェックするかなと開いたら、ラインがいくつか来ていた。

 ゲッ、ショウじゃん。

 まぁ、一応見ておきますか。



 『池袋来た。用事終わってからでいいから時間取れない?』

 うっそでしょ!?

 最後に来ていたその一文で私は震えた。だって、今日ウソの私の日だもん。

 今まさに私も池袋にいるんだけど。

 なんで? どうして池袋にいることばれてるのと思ってラインを見返したら、池袋で友達と遊ぶってラインに打っちゃってる、私のバカタレである。

 どうしよう、とりあえず着替えたほうがいいよね。って、池袋広いし、会うことないよね。とりあえず、遊ぶの終わったら連絡すると打って、私は急いで駅に向かう。




 ロッカーどこに預けたっけ? 一刻も早く化粧を落としたいのにパニックになってるようで、どこに預けたかがパッと出てこない。

 そんな感じでうろうろしてる時だった。




「あの……すみません」

 ヤバい、ロッカーの前ふさいじゃってたよ。

「ごめんなさい、今どきます」

 慌ててロッカーの前からどく。

「あの、そうじゃなくて。覚えてますか?」

 そう言われて顔を上げた先には見慣れたショウの顔があった。



 ジーザス……

 神よ私を見捨てたもうたか……私は心の中で崩れおちた。





 覚えてます、忘れもしませんとも、今日あなたに振られた失恋記念に乾杯したところですよさっき。

 とういうか、私に何の用なのよ?

 何も言えなくて私は好きな人を見つめた。

 

「覚えて……ないですか?」

 私がどうすんだ? と思って固まっていると、ショウは自信なさげにそう言ってきた。

 さすがにシカトを続けるわけにもいかないので、気持ちを無理矢理切りかえる。

「覚えてますよ。奇遇ですね。この前はありがとうございました」

 そういって、私は頭を下げた。どうしよう、嫌なタイミングで会ってしまった。

 ユウキが友達と遊ぶのが終わるまでの時間つぶしに使われたりとかしたら最悪だ、どのタイミングで変身をとけばいいのかってことになる。

 だって両方私なんだもん。


 とりあえず、にっこりと笑顔を浮かべて相手の出方をうかがう。

「あの、この後暇ですか? ……って予定があるから来てるんですよね此処に……」

 そうだよ、家の近所で会った時と違うよ。池袋にいるということは何かしにここにきてるわけだよ。

「はい。ちょっと予定が……」

 これ幸いとそれに乗っかる。

 適当なところで会話を切りあげよう、着替えは隣の駅に移動してからすればいいのよ。

 会話を半ば無理やり切りあげて、ロッカー探しを再開するべく別れようとした時だった。

 ショウが私の手首をつかんだのだ。



 ゴクリっと思わず私は生唾を飲み込んだ。どうしよう、なんで私の手首をつかむの?

 もしかしてばれた? ばれた? ばれた?

 嫌な汗が背中を伝う、ウィッグもしかしてずれてた?

 心臓がバクバクと脈打って、ドックンドックンと自分の鼓動がうるさいくらいに聞こえる。

「……なにか?」

 やっとのことで声を絞り出す。後ろめたくて目が合わせられない。





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