23 「でも、一緒に行くの僕でいいの?」



 朝。

 それは、一日の中で最も布団との戦闘が苛烈になる時間帯である。

 だが、それは普通の休日ならという話で、むしろ夏休みの僕にとっては布団と和解して気持ちよくなれる時間だ。

 エアコンの付いた部屋でゴロゴロするって、なんかいいよね。冬にこたつでアイスを食べるくらい気持ちがいい。

 しかも、昨日は朝日さんの家で誕生日会やって楽しかったけど疲れたから、ゴロゴロする時間が倍気持ちよく感じる。


「はぁ、落ち着く~。」


 夏休みの宿題もほぼほぼ終わったし、僕は部活にも所属していないからもうこの夏休みは忙しさに追われることはない。ただ、怠けすぎて親に小言を言われるのだけは注意をしないとな。

 僕はそう考えながら、特に意味もなくスマホを触り、SNSで誰かが発信した情報をぼんやりと見る。主に見ているのは、漫画とかイラストとかそういうの。

 上手い人も下手な人もいるけど、それぞれの良さがあると思う。

 そう思いながら見ていると、とあるアカウントが見つからないことに気が付いた。

 朝日さんの使っていたアカウント名――つまり、『一つの朝焼け』というアカウントが見当たらない。おかしいと思って覚えていたIDで検索をしてみると、『朝焼けえんぴつ』という名前のアカウントが出てきたので、とりあえずそのアカウントを見てみる。

 すると、最新のツイートに「アカウント名を『一つの朝焼け』から『朝焼けえんぴつ』に変えます。よろしくお願いします』というのがあった。

 なるほど、アカウント名を変えたからわからなかったのか。それにしても、なぜこのタイミングでアカウント名を変えたんだろう。なにか心境の変化があったのだろうか。まぁ、今度会ったときに話せばいいよね。

 僕はそう結論付けて、再びイラストを探していく。


そのまま十分ほどゴロゴロしながらスマホを見ていると、不意に誰かから着信がきてびっくりする。普段、まったくと言っていいほど着信が来ないから、こういうとき過剰に反応してしまう。

 というか、僕に電話してくるのって誰だろう。

 そう思いスマホの画面を見ると、朝日さんからの電話だったので急いで応答をタップする。


「もしもし?」

『もしもし、逢音?』

「うん。そうだよ。なにかあったの?」


 わざわざ朝日さんが僕に電話してくるなんて珍しい。というか、今までなかったと思う。そもそも、わざわざ電話しなくてもスマホでのコミュニケーションは取れるしね。だから、電話をしてくるってことはわりと切羽詰まった状況なのではなかろうか。


『えっと、なにかあったって程ではないんだけど――ちょっと、用事があって。』

「用事?」

『うん、えっと、その――』


 朝日さんはそこまで話すと、なぜか言いづらそうにごにょごにょと聞き取りにくい声で話した後、電話越しでもわかるくらい大きく息を吸った。


『あの、夏だし暑いから、プール一緒に行かない?』

「プール?」

『う、うん。あ、いや、別に駄目ならいいんだけど――』

「いや、全然大丈夫だけど、なんで電話?」


 それくらいなら、別にスマホにメッセージ送ってくれればいいだけの話だし、わざわざ電話してこなくてもよかった気がする。まぁ、別に電話が駄目ってわけじゃないけどね。


『そのほうが、誘いやすいかなって――ほら、急だったし、メッセージだと見逃すかもしれないし。』

「あー、たしかに見逃す可能性はあるね。うん。いいよ。水着ならあるし。」


 夏だからって母が押し入れの奥から水着を引っ張り出してたから、水着はすぐに準備できる。母に「あ、これサイズ小さくなってるかもしれないから穿いてみて~」と言われて穿いてみたから、破れとかはないしサイズも大丈夫なはず。

 あ、そうか。昨日、朝日さん水着買ってたもんな。それを着てみたくなったけど、一人で行くのはハードルが高かったのか。


「あ、でも、一緒に行くの僕でいいの?男女で行くよりも、女子同士とかのほうが気楽じゃない?」

『誘いやすそうな子がいなかったから。それに、わたしは逢音と行きたい。』

「そう?まぁ、朝日さんがいいんなら問題ないよ。いつどこに集合?」

『えっと、十時にわたしのマンションの下に来てもらっていい?』


 そう言われて、僕は部屋に置いていた時計を見て今の時間を確認する。今は九時十分くらいだから、まぁそれだけあれば身支度とか余裕で終わるだろう。


「うん、それでいいよ。あと、なにかあった?」

『特にない。じゃあ、切るね?』

「うん。またね。」


 僕がそう言うと、ぷつんと音がして通話が終わる。

 プールか。そういえば、しばらく行ってないな。まだ泳げるとは思うけど、もう筋肉が落ちてるからなぁ。


 まぁ、どうにかなるか。



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