18 「いや、まさかね。」
朝日さんと日向さんの仲睦まじい姉妹の様子を見ながら、まったりと誕生パーティーは進行していった。まぁ、パーティーとはいってもご飯を食べながら話してるだけなんだけどね。
ふと時計を見ると、既に時間は七時を回っていた。二時間たった割には料理は減っていない――というか、そもそもの料理の量が多すぎだと思う。絶対三人で食べる量じゃない。もう三人ともお腹いっぱいで食べる手が止まってるどころか、もはや食べようという意思すら感じられない。いやまぁ、今日中に食べきる必要はないのかもしれないけどさ。
「ん?逢音君どうした?なんか遠い目してたけど。」
「ああ、なんでもないです。ただ、料理が明らかに多いなって思ってただけなので。」
「あ、それわたしも思った。」
朝日さんと僕の二人の視線を受けた日向さんは、「んー」とわざとらしくなにかを考えたような動作をすると、悪戯っぽく笑う。刹那、僕の第六感が悪いなにかを感じ取った。なぜだろうか。日向さんがそうしていると悪い予感しかしない。
「どうしよっかな~、今教えちゃおっかな~。」
「お姉ちゃん。そういうの面倒だから、さっさと言って。」
「相変わらず朝日は手厳しいね!?ちょっとくらいお姉ちゃんのふざけに付き合ってくれてもよくない?私、悲しい――」
およよと、わざとらしい態度で悲しさを表現する日向さん。それを見た朝日さんは見るからにむすっとした顔で日向さんを軽く睨む。どうしてかな、日向さんと朝日さんのやり取りが、酔っぱらって絡む人と絡まれて面倒だって思ってる人のそれにしか見えない。だれも酒は飲んでないはずなんだけどな。日向さんのテンションは普段から酔っぱらいと同レベルなのかもしれない。
「んーっとね、なんて言ったらいいのかな?逢音君、どう思う?」
「いや、わかるわけないじゃないですか。」
そもそも、日向さんがなにを考えてるのかわからないのに、そんなの僕が知ってるわけがない。ただ、やっぱりなにか面倒ごとの予感が拭えないのが怖いな。こういうときの第六感は当たるから余計に。
「ま、それもそうか。うーんとね、まぁ、もうじきわかるよ!」
そう朗らかに言う日向さんに、朝日さんはもはや呆れの視線を送っている。というか、もうじきわかるってどういうことなんだろう。日向さんがなにか企んでるのは間違いないとして、その企みの内容が予想できない。んー、僕の精神衛生上、なるべく予想しておきたいな。『これが起こる』ってわかっていれば、心の準備ができるしね。
それにしても、本当なんなんだろ。あ、もしかして僕がプレゼント渡すタイミングを指定したのもそういう意味があるのかな?んー、もし意味があるとしたら――その企みに関する『なにか』を待っていると考えるのが自然かな。すると、その『なにか』は食べ物が多いのと関連するのかもしれない。
「――いや、まさかね。」
ふと、脳裏にうかんだ一つの可能性。いや、さすがの日向さんでもそんなことはしないだろう。もしそれをすれば、朝日さんは喜ぶどころか警戒心をマックスにしてもおかしくないのは、日向さんにもわかるはずだ。
ただ、日向さんならできるし、やりそうな気も――
『ピンポーン』
僕の思考を遮るように、そんなインターフォンの音が鳴り響く。隣に座る朝日さんが「なんだろ?なにか宅配頼んでたかな?」と首を傾げながら立ち上がろうとしたのを、日向さんが手で制する。日向さんは立ち上がると、インターフォンの画面に映った相手の姿を確認するや否や、一言も話さずに一階のエントランスのドアを解錠した。
「じゃあ、ちょっと待っててね~!」
楽しそうにそう言って、日向さんはリビングから廊下に出て行った。おそらく、玄関までその『だれか』を迎えに行ったのだろう。
「――どうしたんだろ?」
自分の悪い予想が当たってしまったと思わしき事態に冷や汗をかいている僕は、朝日さんの呟きに反応する余裕はない。え、これどうしよ。僕の予想が外れて、クラスメートとか朝日さんの中学時代の知り合いが来ればいいな。
「――逢音?どうしたの?なんか焦ってるみたいだけど。」
「な、なんでもないよ。誰が来たのかなって気になってるだけ。朝日さんは、誰だと思う?」
「んー、お姉ちゃんのことだから――なにか、追加で食べ物の宅配でも頼んでたんじゃないかな。」
そんな朝日さんの平和な予想に、僕は「なるほど、ありえるね」と相槌を打つ。うん、きっとそうだ。食べ物だと信じよう。まぁ、これ以上食べ物増えたら増えたで後の処理が大変そうなんだけどね。
「大丈夫だって!ほら、はやくこっち!」
日向さんはそう『だれか』に話しかけながらリビングに入ってきた。そして、その『だれか』をこちらから見えない位置に誘導すると、この上なく楽しそうに笑う。
「じゃあ、本日の特別ゲストの登場です!どうぞ~!」
テレビ番組の司会のような口調でそう言うと、一人でパチパチと拍手をして『だれか』を招き入れる。刹那、それがだれかを認識した朝日さんが隣でびくっと震えたのがわかった。ああ、やっぱりこの人だったか。
「お、お父さん!?」
朝日さんは驚いたようにそう言うと、ガタっと椅子を鳴らして立ち上がった。
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