17 「あはは、遠慮しておきます。」



「じゃあ、朝日の誕生を祝って!乾杯!」

「「乾杯。」」


 日向さんの元気な乾杯の音頭に合わせて飲み物(もちろん酒ではない)が継がれたコップを合わせると、それぞれが口をつける。ちなみに、席は朝日さんの隣に僕、朝日さんの正面に日向さんというような感じだ。


「いやぁ、朝日も大きくなったもんだよ。もう十六歳だもん。昔はこんなに小さかったのにさ。ほんと、嫌になっちゃうくらい成長が早いよ。あ、まだ早い時間だから、お腹空いてなかったらそんなに食べなくていいからね?まだまだ夜は長い!」

「いや、まだ夕方だから。」


 やけにハイテンションな日向さんに、朝日さんからのツッコミが入る。しかし、朝日さんの表情がいつもより緩んでいるのを見ると、朝日さんもテンションが低いわけではなさそうだ。


「そんな細かいことはいいの!そんなことよりさ、逢音君。せっかくの誕生日会だし、朝日の面白い話聞きたくない?」

「お姉ちゃん!」

「あはは、遠慮しておきます。」


 うん、明らかに日向さんのテンションが高い気が――って、あれ?いつもこんな感じだったかな?いや、いつもはもう少し声のボリュームが小さかった気がするし、やっぱりテンション高いんだな。


「あ、そういえば、今日二人のデートはどうだった?」

「ふぇっ!?」


 唐突にそんな話題を出されて驚いたのか、朝日さんが変な声をあげる。まぁ確かに男女で買い物に行ったわけだし、デートという言い方もできなくはないね。付き合ってないのにそんな言い方することも少ないけど。


「で、デートってそんな――」

「ん?なんか違った?」

「ち、違ってはいない――けど――」


 どんどん顔が赤くなっていき、それにつれて声が小さくなる朝日さん。その反応を面白がるように、日向さんはさらに朝日さんをからかうようなことを言う。うんうん、姉妹で仲がいいのは大事だね。あ、この肉美味しい。

 そういえば、プレゼントっていつ渡せばいいのかな。日向さんから「タイミングを計って先に渡すから、その後に渡してね!」と指令を受けてるんだけど、まだその時じゃないのかな。まぁ、まだ全然日も暮れてない時間だしね。ケーキを食べ始めるくらいの時間になったら渡すのかな。


「で、逢音君はどうだったの?」


 姉妹の仲睦まじいやり取りを眺めていると、唐突に僕のほうに話が飛んできた。日向さんが朝日さんを一通りからかったからかもしれない。


「楽しかったですよ。カラオケとか行きましたし。朝日さん、歌上手ですね。」

「あ、ついにカラオケ行ったんだ!朝日のことだから、大学入ってからも行かないかと思ってた。そういうのとは無縁な人生を送りそうだなって思ってたんだけど、そっか~、朝日もついにカラオケに行くようになったのか~。なんか、感慨深いね。」

「――なんで、わたしがカラオケ行っただけでそんな反応になるのか。」


 心底理解できなそうに朝日さんはそう呟くと、コップの水を一口飲んだ後、暑いのか服の襟をパタパタさせる。とりあえず、下着とか見えそうだったから目を背けておいた。妹がそういうのを気にしないので、女子のそういうのを見たことがないわけではないものの、やっぱり家族以外の下着とかを見ると背徳感がある。もちろん、背徳感だけではないけどね。


「だって、あの朝日だよ!?あの、あの朝日がカラオケに行ったんだよ!?」

「どのわたしか説明してくれないとわかんない。」

「そりゃあ、男子と接することがほぼなかったり、デートって単語だけでも赤くなっちゃうような朝日だよ。」

「赤くなってないもん。」


 いや、さすがにそれは無理があるんじゃないかな、朝日さん。まぁでも、デートって単語で赤くなったというか、日向さんのからかいで赤くなったってほうが正解な気はするけど。


「赤くなってた!」

「なってない!」

「なってたよ!ね?逢音君!」

「まぁ、なってましたね。」


 日向さんに同意を求められ苦笑しながら頷くと、朝日さんから恨めしい目で見られた。恨めしい顔といっても、ただ可愛いだけなんだけどさ。迫力とかは全くない。


「逢音、裏切った――」

「別に僕は裏切ってるわけじゃないよ?」

「充分な裏切りだと思う。」

「そんなつもりはないんだけどな。」


 とりあえず、そう苦笑いを返しておくことにする。朝日さんも本気で裏切られたと思ってるわけではないだろうしね。もし本気なら、もっと怒られたり失望されたりするだろうし。


「まぁまぁ、朝日。私が逢音君と話したからって妬かないの。」

「や、妬いてない!」


 焼く?なにを焼いたんだろう――って、テンプレートなボケはほどほどにしておこう。おそらく日向さんは、朝日さんが『友人と姉が話してたから妬いた』と思ったんだろうな。まぁ、実際はそんなことないんだろうけど。だって、姉が友達と話してたくらいで妬かないでしょ。


「ふーん。じゃあ、そういうことにしておくよ。」


 日向さんはそう含みのある言い方をすると、楽し気に笑う。それを見た朝日さんは相当悔しそうな顔をするものの、結局諦めたのかなにも言い返さなかった。


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