第9話 成田空港奔走

 タクシーに代金を支払って車から下車して空港内へ走った。

 恐らくもうこの建物内に山吹はいると思われる。

 時刻はもう8時30分を既に過ぎている。奴と話すのならせめて11時前には見つけだしたいものだ。

 しかし問題はこの広さだ。調べたところによると成田空港は第1から第3ターミナルがあり、それぞれが非常に広くてとてもではないがすべて見ていては時間がない。ここは国際線の出発ロビーを中心に見ていくべきだろう。

 まずは第1ターミナルの4階へと上がって人込みをかき分けながら探す。奴はいつもしわくちゃな服を着ていて、頭は天然パーマでボサボサなのだ。ぱっと見ればすぐにわかるはずだがこうも人が多いと見付けにくい。

 レストランで食事をしている可能性もあるが、そこまで調べていると時間が足りなくなってしまう。

 一通り全体をくまなく探し回ったがここにはいないようだ。時刻は既に9時40分になっている。次のターミナルに向かうにはバスを利用すればいいようだが、10分ほどかかるようだ。こうなると本当に急がなくてはならない。

 急いでエスカレーターを降りて外に出た。バスストップには数名の利用客が並んでいる。その中にひねくれ者はいないかとちょっと期待したが、そんなにおいしい話はないようだ。

 バスは3分ほど待っているとやってきた。急いで乗り込むと席に着いた。

 焦りからか普段しない貧乏ゆすりを始めていた。気が付いてすぐに抑えて、気持ちを落ち着ける。ここで焦っていては重要な部分を見逃してしまう。落ち着いて冷静になるのだ。そうすることが今一番重要なことなのだ。


 第2ターミナルは国際線出発ロビーが3階にあるようだ。まずそこを調べて、いないようなら走ってでも第3ターミナルに行ってみよう。恐らく時間はギリギリになるだろうが、そうだとしても諦めるよりはいいだろう。

 バスが第2ターミナル前で停車した。すぐ下車して急いでエスカレーターで3階へと上がった。

 3階を見渡すと、俺の目に見覚えのある男の姿があった。

 ゆっくり近づいていくと服のしわくちゃな感じやあふれだす面倒くさそうな空気感を感じた。間違いなくあの男だと確信した。


「山吹!」


 ひねくれ者はゆっくりこちらを振り返り、ふんっと鼻を鳴らしてあきれたような顔で言った。


「なんだ、やっぱり来たか。君というやつは本当に思う通りの行動をするな矢田氏よ。そんな君だからこそ私は君を友と呼ぶのだよ」


 久しぶりに出会ったひねくれ者の顔は少し大人びているように見えた。

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