第8話最大の壁、深夜バス
深夜バスの車内は自分の思っていて以上に狭苦しく、悶々とした気持ちの悪い空気が立ち込めていた。こんな中で10時間も揺られるのだと思うとかなり覚悟が必要かもしれない。
実際は休憩時間を取るのでそこまで長い時間ではないのだが、それにしたって長い。それもこれも新幹線が通っていないことが原因なのだ。もう乗ってしまっているから文句を言っても仕方がない。とにかくこの長い戦いを乗り越えなければならないだろう。
バスが出発したのは午後6時3分の事であった。酔い止めを飲んでいる状態ならば本も読めるはずだと思い、本を開いてみるのだが、まったく集中することができない。本を読んでも内容が入ってこないのだから読む意味がない。仕方がないので本を閉じて窓を流れる景色を眺めて過ごした。
そうしているうちに眠たくなってきたので首枕をつけて眠りに落ちた。
パッと目が覚めた。時計を見ると深夜の1時。まだ眠いのだが、体中が痛い。固い座席を少しだけ倒して寝ているのだからある程度は覚悟していたがこれほどとは思ってもいなかった。これが深夜バスの辛さなのだろう。このまま座っていても眠れないと感じた僕は一度トイレに立った。少しでも歩けば多少マシになるのではないかと思ったのだ。
その間、寝ている客の顔が見えるのだが皆長時間仕事をした後のような疲れ切ったような顔をしている。眠って体を休めているはずなのにこんな顔になるとは、深夜バスは真に訓練された者のみしか乗ってはいけないものであるようだ。
トイレを済ませて再び眠りに着こうとするが全く眠れない。眠いのに眠れないというのは何とも苦しい。だんだんと酔いがきて気分が悪くなってくる。
「おのれ……こんなところでダウンするわけにはいかん」よ
無理やり寝ようとしても眠れない。ここは力を抜いてぼーっとする方が眠りに入りやすい。
目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。
明朝、僕はバスを降りて大きく伸びをした。千葉県に入ってきた。あとは公共交通機関を利用して成田空港まで向かうだけだ。まあ、その前に少しだけ体を休めるとしよう。僕にはまだ深夜バスで快適に旅できるだけの体と精神は持っていないことがよく分かった。帰りは別の交通機関を利用しよう。もう乗りたくない。
「ここから成田まで1時間はかかるのか。まあそれだけあれば十分だな」
僕は24時間営業のファミレスでゆっくりと食事をしつつ、空港までの道のりを調べた。タクシーを捕まえるのが一番早い。お金は十分足りるだろうから、それでいくとしよう。
店内で2時間ほど休憩して少しは元気になった。駅の周辺に向かい、止まっているタクシーに乗り込んだ。
「成田空港まで頼む」
さて、あとはひねくれ者をとっ捕まえて話を聞かせてもらわなければ。12時に発つということは大体11時半くらいまでがタイムリミットだろう。それまでに初めて入る大きな空港の中を右往左往して見つけ出さなければならない。これは中々大変な作業だ。
奴の行動を読んで先回りができればいいのだが、あの男の行動を読むというのは不可能に近いのでしらみつぶしに見て回るしかないかもしれない。
まあそんな風に事前対策をしていても仕方がない。なるようにするしかない。
時刻は午前8時4分。もう時間はわずかしかない。急がねば……。
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